豊かさの提供だけではなく、困りごとを解決する存在に
――今回は、除菌用アルコール「MEIRIの除菌 MM-65」(以下「MEIRIの除菌」)のブランディングについて、茨城県水戸市の酒造メーカーである明利酒類の山中さんとI&CO Tokyo(以下、I&CO)の橋本さんに、オンラインで取材させていただきます。まず自己紹介をお願いします。
山中:元々医療機器メーカーの営業として、病院やクリニック、高齢者施設などとお取引していました。2年前にUターンで茨城に戻って明利酒類に入社し、食品部門で料理酒など発酵調味料の営業や、商品企画のご提案をしています。
橋本:これまでのキャリアでは、主にロゴデザインを中心に企業や公共団体のブランディングを手掛けてきました。I&COでは、ビジネス開発や事業ブランディングの知見が厚いメンバーとともに引き続きデザイナーとして携わっています。
――なぜ酒造メーカーが除菌用アルコールの開発に至ったのか、新規事業の発端をうかがえますか?
山中:当社は今年で創業70周年、前身の酒造店から含めると江戸時代末期から商売を続けています。地産地消を掲げ、地域になくてはならない会社を目指してきましたが、お酒はどちらかというと一定の生活水準があった上で豊かさや楽しさを提供する商品です。それだけではなく、地域の皆さまが困っているときにも役に立てる存在になっていきたいという考えがあり、数年前から社内で「社会課題の解決と事業の両立」がひとつのテーマになっていました。
社会のニーズに応えるスピード感
――それは、新規事業開発室のような部署で模索されていたのですか?
山中:いえ、有志による部門横断のタスクフォースのような形ですね。具体的に動き出したのは2020年4月、私を含む有志の若手でプロジェクトチームを立ち上げたことです。
私は医療業界で働いた経験があったので、アイデアのいくつかの案の一つとして、アルコールを飲食ではない領域に活用する方向性も社内に提案していました。アルコールは当然ながら取り扱いに免許が要りますし、大量に製造するにも特殊な要件と専用のラインが必要なので、関連事業に参入できる企業は限られます。コロナ禍で除菌用のアルコールを製造することは、地域に必要とされる会社を目指す我々としては、担っていきたい役割だったのです。
――そういった構想が、コロナ禍の影響で一気に商品開発へと進んだ?
山中:おっしゃる通りです。3月の時点で、除菌剤の需要が増えるだろうという予測はありましたが、そのニーズの伸びは予想以上でした。スピード重視で商品開発を進める中、一般向け消費財メーカーさんの除菌剤が市場から消えていきました。
――5月にリリースされた除菌用アルコール「MEIRIの除菌」に先立って、高濃度アルコール「メイリの65%」、さらに手指消毒液代用の高濃度エタノール製品「メイリの65% 魁YELLOW」を発売されています。これらはどういった位置づけなのですか?
山中:実は、これらは一般向けの除菌剤がドラッグストアの棚から消えている時期の継投(つなぎ)として役立てばと思い、デザインも通常の酒類商品と同じ印刷会社に依頼して急ぎ発売したものです。アルコール度数は一般的な消毒液と同等ですが、商品の分類としてはウォッカなんです。
一方、「MEIRIの除菌」は地域に貢献できる新たな事業軸という観点で、最初から学校や公共機関などへ業務用を展開するつもりだったので、明確に線引きをする考えがありました。