※本記事は、2020年6月25日刊行の定期誌『MarkeZine』54号に掲載したものです。
マーケティングは誤解されている
「マーケティングの理想は、セールスを不要にすることである」
経営学者のピーター・ドラッカー氏は、著書『マネジメント』(ダイヤモンド社)の中でそう語っています。営業がセールストークをしなくても、商品が自然と売れてしまう状態を作るための方法論がマーケティングというものです。売上を上げるために寝る間を惜しんで働くのではなく、働かなくてもちゃんと持続的に売上が上がり続ける「仕組み」作りがマーケティングなのです。
でも、いつの間にか、マーケティングは、短期的な売上を追い求める活動になってしまいました。もちろん短期的な売上は必要なことです。しかし、売上が上がり続ける「仕組み」のない状態で、単発的な仕掛けを打ったとしても、それが終わると売上は下がっていきます。そして、また次の単発的な仕掛けを行う。その繰り返しでは、いつまでたっても仕事は楽になりません。
つまり、マーケティングとは、単発的に売れる「仕掛け」ではなく、持続的に売れ続ける「仕組み」を作ることであり、「売るための努力をしない努力」なのです。だから、マーケティングが上手くいけば、究極的には働かなくて済むはずです。
かつては、人口が右肩上がりの成長社会だったので、商品を出せばある程度売れた時代でした。だから、生活者に商品を知ってもらい、一度だけ「買いたい」と思ってもらえば、それでビジネスが成り立ったのです。しかし、人口が右肩下がりの成熟社会に突入し、一度だけ「買いたい」と思わせることに、あまり意味がなくなってしまいました。だから、広告やクーポンで一度だけ使ってもらったとしても、そのあと続かないケースが増えたのです。
何度も買いたい「仕組み」を分析していくうちに私たちがたどり着いたのは、生活者の「習慣化」です。今、「習慣本」と呼ばれる書籍の刊行が相次いでいます。生活者は、商品ではなく習慣を欲しています。だから、企業は、「新しい商品ではなく新しい習慣を作る」という考えを持ったほうがいいのです。つまり、これからは、企業が商品を作って、それを広告で世の中に伝えるだけでなく、その商品を使った「新しい習慣」をいかに世の中に提案するか? が、今まで以上に大事な時代になります。歯磨きをする習慣、毎日シャンプーをする習慣、ビールで乾杯をする習慣、土用の丑の日にうなぎを食べる習慣など、商品を使った習慣が根付けば、その商品は長く買い続けてもらうことができます。一時的に買われる商品ではなく、持続的に買われる商品を生み出したいと考えるなら、「習慣化」こそ最も重要なキーワードなのです。新しい習慣は今までも生み出されてきましたが、不思議なことにその方法論については、ほとんど議論されませんでした。