乱発しないために設けたルール
栗原:現在はクーポンやメールはどのように使っていますか。
川西:クーポンに関しては特定のシーンや特定のお客様に対して、戦略的に使っています。そうすれば全然“悪”ではなく、非常に効果的です。
メールに関しても、各事業担当が良かれと思って部分最適で送ると、週に50通くらい、freeeからメールが来るような状態になってしまう。これを抑制するためのルールを設けました。
当社のマーケティング部門は各事業についてPL責任を持つチームと、それをセントラルで見ながらインフラ整備なども行うチームの2つに分かれているのですが、最終配信権をセントラルの側に寄せ、そこを通さなければ配信できないという形で統制しています。
栗原:そのマネジメントはかなり良さそうですね。特にメールは本当にわかりやすく反応があるので「中長期的には価値を棄損してしまう」とわかっていても、自制するのはすごく難しい印象がありました。
栗原さんが振り返る半年間の反省ポイント
栗原:実はここ半年ほどで、私もやってしまった施策上の失敗がありました。
今、SNSやメディアに、いろいろな情報があふれているじゃないですか。他社の動きを見ながら、マーケティング施策を考えてしまうことがあって。最近だと「YouTubeをやったほうが良いんじゃないか」とか「このメディアの広告が良いらしい」という話を聞いたりして。でもそういうやり方は、往々にしてうまくいかないな、という感覚です。川西さんは、そういうことってないですか?
川西:あります。特に、大型の認知施策をやっていらっしゃるのを見かけたりすると、心が揺れますね。マス施策はどんなKPIでやっていて、どれだけ効果が出ているのか、外から見ていると全然わからない。「自分たちは間違っているんじゃないのかな」と、それまで考えていた予算配分を変えたくなってしまったり……。
栗原:でも中長期的に考えると、会社のありたい姿や元々立てていた戦略に基づいて施策をやらないと、蓄積していかない。柱のようなものが育っていかないなと。最近の大きな学びです。
「デパートのような状態」のマーケ部門、適材適所の難しさ
栗原:次は組織に関してうかがいたいと思います。過去経験した失敗、記憶に残っている出来事はありますか。
川西:組織についてもいろいろあるのですが、どの役割を誰に担ってもらえばいいのか、適材適所を見抜くことが、今なお難しいです。一言でマーケティングと言っても、データクレンジングやMAツール運用から、クリエイティブ寄りの仕事まで様々で、デパートみたいな状態になっているじゃないですか。求められる資質も多種多様な中で、freeeとしての経験値が十分に貯まってないときは、たくさん失敗しました。
栗原:たとえばどんなことがあったのでしょうか。
川西:今、ある事業のマーケティングをリーダーとして推進している若いメンバーがいるのですが、営業をやってもらっていた頃は、なかなか成果を出せなくて。このままではまずいということで、マーケティングのチームに異動してきたところ、彼も、彼の担当している事業も、一気に成長しました。
当時「最初からこうしておけば良かった」「こういう例は山ほどあるだろうな」と思ったのを、よく覚えています。
栗原:その方は、どういうところがマーケティング部門にフィットしたのでしょうか。
川西:BtoBマーケティング、特に足元の獲得の部分で一つとても大切な資質は、とにかく成果に執着して、あくなき手数を打ち続けられることではないか、と思っているんですね。
愚直な努力や愚直な創意工夫が絶対裏切らないのが、BtoBのマーケティングの良いところですが、逆に言うと、他社も同じようにやっている。なので、最後の最後、その一文字に情熱を加えられるか、その一つの画像に、極端な話、命をかけられるか、みたいなものが問われると思うんです。そういうところが、彼はすごく強くて。
彼のような資質をもった人が成果につながるのだという発見は、私のマネジメントの経験値としても大きくて、翻って成功体験にもなりました。