※本記事は、2020年8月25日刊行の定期誌『MarkeZine』56号に掲載したものです。
多様な背景を持つ人同士が創発するプラットフォーム
日本マーケティング学会 会長/武蔵野大学 経営学部教授
古川一郎(ふるかわ・いちろう)氏
東北大学助教授、大阪大学助教授、一橋大学大学院商学研究科教授を経て現職。2019年4月より、日本マーケティング学会会長を務める。2020年3月、一橋大学名誉教授に就任。主要著書『マーケティング・リサーチのわな』(有斐閣、2018年)、『地域活性化のマーケティング』(共著、有斐閣、2011年)、『いま・ここ経営論』(共著、東洋経済新報社、2010年)、『反経営学の経営』(共著、東洋経済新報社、2007年)、『超顧客主義経営』(共著、東洋経済新報社、2003年)、『マーケティング・サイエンス入門』(共著、有斐閣、2003年)、『デジタルライフ革命』(共著、東洋経済新報社、2001年)、『出会いの「場」の構想力』(有斐閣、1999年)など多数。
――MarkeZineでは昨年8月から、日本マーケティング学会の協力の下「マーケター必読!論文のすすめ」という論文紹介の記事をWebで連載しています。実はコロナ禍の時期、この連載のPVが大きく伸びています。
それはいいですね。学会の活動も、どうしてもリアルな場では制限されてしまいましたが、元々活発な方々が多いので、あっという間にオンラインでのサロンやウェビナーがたくさん企画されるようになりました。
――日本マーケティング学会は2012年に設立され、古川先生は2019年4月より会長に就任されています。まず、学会が目指す姿と活動内容をうかがえますか?
私たちは設立以来「探求と創発」を掲げ、実践的な場を作ることを目指してきました。マーケティング領域にもたくさんの学会があり、たとえば日本マーケティング・サイエンス学会や消費者行動研究学会など、各学会がそれぞれの原理原則や拠り所に基づいて活動しています。私たちは特定の領域を掘り下げると言うより、様々な領域を横断して議論することで課題を共有し、解決を図ろうとしています。他の学会とも緩やかに連携する、プラットフォームのような位置づけになっていると思います。
そのため、少し抽象的ですが「探求」したい人ならどんなバックグラウンドの方でも歓迎です。学会員の多様性が広がるほど、示唆に富んだ気づきや発見――「創発」が活性化すると考えています。実務家が研究者の約2倍いることも、一般的な社会科学系の学会としてとてもユニークだと思います。ここ数年、会員数は2,000人前後で安定しており、この構成比も維持されていますね。また、女性の会員が26%というのも高い方かもしれません。もちろん、もっと多くなってしかるべきとは思いますが、女性マーケターのキャリアといった女性ならではの研究グループも展開されています。
主な活動は、カンファレンス、リサーチプロジェクト、マーケティングサロン、マーケティングジャーナルの4本の柱から成り、「春のリサプロ祭り」「秋のカンファレンス」と呼んでいる定例イベントも定着しました。たとえばリサーチプロジェクトは現在30以上が進行中で、医療や宇宙といった大きめのテーマから、鉄道会社の方を中心にした鉄道沿線マーケティングのような絞り込まれたテーマまで、本当に幅広いです。