どんな状況でも、まずはサービスの価値訴求が最重要
樋口:オンラインを全面に打ち出した訴求がイマイチだった原因を社内で分析したところ、7割のお客様が住み替え・建て替えをどうしたらよいかわからず、様子見していることがわかったんです。
我々は、このインサイトを理解していませんでした。「これまでと同じ内容のサービスをオンラインでやればよい」ということで訴求していたのですが、それが唐突だったのかもしれません。
反応がよかった取り組みもありました。ビギナー向けのウェビナーや、「マイホーム計画どうする?」という様子見ユーザー向けのメッセージが入った広告は受けがよく、オンラインのチャネルにお客様が流れていきました。
コロナ前後で比較すると、ZoomやLINEのオンライン相談は増えていますが、やはり店舗ニーズは強く、6月以降店舗が再開すると、まだ対面相談のほうが多い状態ではあります。ただ、このオンライン相談も一度体験してもらうと、非常に高い満足度が得られているんです。コロナの感染リスクも抑えられますし、今後も試行錯誤しながら推進していきたいところですね。

樋口:以上からまとめると、「時代の変化はあるが、自社商材へのニーズが変化しているわけではない」ということがわかります。ただ、その時代の変化をどう取り入れていけばよいのか、そのバランスが重要ですね。あとは、オンライン相談など目新しい取り組みに対し、使ってもらうためのハードルをどう下げていくかがポイントだと思っています。
大松:オンライン相談が、お客様にとって大きな価値にはならなかったということですよね。そもそも、最初に樋口さんがおっしゃったように、大半のお客様にとって不動産購入は初めてなので、何を相談すればよいのかわからない。なのでコロナ禍では、様子見のお客様が増えてしまったんだと思います。
樋口:はい、「どういう状況でも、まずはサービス=商材の価値を訴求していかなければならない」と学びました。今はそれを行った上で、お客様に好きなチャネルを選んでいただくようにしています。
大松:デジタルシフトはあくまで手段であって、目的ではない。これはとても大きな気付きだと思います。自社の提供している価値を理解しないと、消費者に寄り添うことはできませんから。
一人の人間の“事実”に寄り添って仮説を見出す
樋口:状況が刻一刻変わる中、素早くインサイトを見極めて自社のマーケティングに落とし込んでいくことは重要だと思いますが、どう進めていけばよいのでしょうか?
大松:世の中には様々な海外での事例や専門家の意見がありますが、そこからインサイトを捉えるのは中々難しいです。大事なのは、一人の人間(n=1)の“事実”に寄り添って仮説を見出すことではないでしょうか。そしてその仮説を、どれだけの人が求めているのか、一般性があるのかを検証していく。私はこれを「アート&サイエンス」と呼んでいます。
アートとは、仮説を見出すプロセスのこと。その後の仮説を検証して、1つの解を導くことがサイエンスです。重要なのは、アート&サイエンスであって、サイエンス&アートではないんですよね。この順番で進めていくことがポイントです。
樋口:なるほど。普段からアート、仮説をコレクションしておくことがポイントなんですね。マーケターとして、仮説の引き出しをいくつ持てるかは腕の見せ所だと思うので、その方法は模索していきたいと思っています。
大松:マーケティングリサーチの予算は各社もっていると思いますが、検証、つまりサイエンス部分に多くの予算を投入するケースが多いんです。しかし、本当に差別化につながるのは、実はアート、仮説の部分なんですよ。P&Gなどは仮説探索に予算をかけていることで有名です。仮説作りに時間と予算を割くことをお勧めします。
続いてウエディングパークの助川さんに、コロナ禍でのブライダル事業における新たな取り組みについて伺いたいと思います。