DXに必要な人材の芽を摘まないことが大事
――従来の組織では、部門ごとの分断によってシステム部門が他部門の理解を得られにくいという課題が見受けられますが、ソフトバンクの場合はそういうことがありましたか?また組織の中での影響力をどのように広げていったのか、教えてください。
福井:SI会社でシステム開発を行っていた経験から大切だと感じるのは、システム部門に敵ではないと思ってもらうために、システム部門の言葉で話をすることです。
「ここまでに完成していないと困る」というような事業サイドの言葉を投げかけるのではなく、システム部門側の話を聞き、どこまでが可能でどこからが無理かを確認しながら、「何故そのシステムを作りたいのか」「それによってお客様にどんな喜びを提供できるか」を地道に伝えていきました。
データを使うことに関しては、セキュリティ部門からも難色を示されていたのですが、それについてはまず説明内容を理解してもらえるよう30回ほど勉強会のような会を実施して、知識レベルを上げてもらい説明を進めていきました。反対部門との対話が前進のポイントだと思います。
福田:AOKIホールディングスの吉田さんとお話しした時にも、ビジネスとシステムの言葉を両方知っているのが現代のマーケターの条件になっているって話をしたのですが、まさにそれですよね。
福井:はい。ある時、マーケティングサイドからデジタルの知識や経験を身につけていくのと、デジタルサイドからマーケティングの知識や経験を身につけていくこと、どちらの方が早道かという話が出たのですが、それについては、僕自身の実感としてもデジタル基盤を持ってからマーケティングに頭を切り替える方が早いと思っています。
だからこそテクノロジー人材が、同じ場所に留まり続けるのはもったいなく感じてしまうんです。

福田:同意見です。僕たちもテクノロジー人材にビジネスに興味を持ってもらう方法を見つけようとしています。問題は、双方の越境ができる人材をどう育成するかという話ですよね。
福井:どうきっかけを作るか、難しい問題ですね。インターンにくる学生なんかを見ても、「最初からAI使って分析だけやりたい!」みたいな方がきたりすると、インターン期間も短いから「プログラムやってみない?」って踏み込むことすらできなくて。
僕自身は、前職で営業やコンサルをしていた時、ITのわかりにくい事象や単語を経営陣に理解できる言葉に変えていくことを実践していたので、素地はできていたかもしれません。
山上:そこで両方の通訳に留まらず、自分がやってみようと思うところが大事ですよね。
それは育成できる領域ではないような気もします。トランスレーターとしての興味がある人、活躍したいと考えている人が少ないですよね。
福田:そういう人材は、外資系企業に良い待遇を提示されて、持っていかれてしまっていたりもしますよね。日本企業が育たない理由のひとつでもある。
福井:数年前、中途採用に携わっていたことがあったのですが、やはり外資系のエージェンシーやコンサル企業に人が取られていくということはありました。
ですが最近の傾向として、事業サイドの若い人たちが自らテクノロジーの領域を理解してみようと挑戦している様子がうかがえるので、その芽をつぶさないで欲しいと思う。
この世界って多少のリスクを負ってでもチャレンジしてみないとわからないことだらけじゃないですか。だからこそ、そういう人たちが挑戦でき、伸びていく土壌を事業者側が作っていかないといけないですよね。
もしある程度の立場にいるけど、デジタルのことがわからないという方がいれば、それを正直に言って、デジタルが得意な優秀な若手に挑戦させた方が組織は上手く回ると思います。
山上:変にわかろうとして知った気になったり、自分がわからないことを排除したりするよりもその方がよほど良いですよね。
――最後に、御社でのDX推進をこれからどのように展開されていくのか、展望をお話しいただけますか。
福井:いまはまだ、我々が目指す理想に向けた前段を整えているに過ぎませんし、DXを語れる状況もできていません。
ですが、最近のコロナの状況を考えると、まだまだやれること、やらないといけないことも増えていると感じています。そういう意味でも、しっかり我々がやってきたデータを使ったスコアリングと、顧客接点をどうつなげていくかが大事で、すべてのチャネルにおいて心地よく感じてもらえるコミュニケーションを作っていきたいと考えています。