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DXの組織を新設、全社で“自分ごと化”していく 中外製薬「CHUGAI DIGITAL」の取り組み

本当に部に必要な人財は? 職能を見極めたキャリア採用

——小坂CEOのデジタル投資の決定も、参画を決められる要因になったと、既出記事で拝見しました。具体的に、参画されたタイミングはどのような状況があったのでしょうか?

 対外的にはあまり発信していませんでしたが、社内ではデジタル活用を目指し、インテリジェンス機能を担う部門の新設や各本部におけるデジタルチームの設置など、個別の動きがありました。今後に向けた議論の中で、最終的には小坂が「全社的な組織を作る」と決定し、2019年10月1日に全社のデジタルおよびIT戦略を一元的にリードするデジタル・IT統轄部門を設置し、私が統轄部門長となりました。そして直下にキーとなるデジタル戦略推進部を作ることになったのです。

——では、デジタル推進部の具体的な組織づくりと、人財の構成などについて教えてください。特に、データサイエンティストのキャリアのある方の採用は今、難しくなっているのではと思います。

 発足時は20名ほどでスタートし、1年かけて中途採用を行い10名ほど増えているので、現在3分の1がキャリア採用の方ですね。データサイエンティストももちろんいますが、全員ではありません。むしろ「社内の人財が有していないスキル」を補完するバランスを重視していて、データエンジニアやセキュリティのスペシャリスト、またブランディングやマーケティングに長けている人として広告会社の出身者も加わっています。職能の要件をかなり細かくして、部として本当に必要な人財を明確にした上で募集しました。

——内部からの登用は、どのように また、内部登用の方と中途入社の方で評価基準を変えられたりしているのでしょうか?

 内部の人財には私は詳しくないので、そこは人事部とすり合わせて、各部署のメンバーのデジタルリテラシーや意向などを汲んで調整していきました。デジタル戦略推進部の部長は、簡単には決まりませんでしたが、最終的には研究部門出身で、創薬に加え、新製品の開発から発売に至るまでの責任者なども務めてきた者を小坂が指名し、着地しました。

 評価基準は、特に変えていません。人事制度ではジョブ型の評価を採用し、キャリア採用のメンバーも公平に評価できるようになっています。職能を主軸にしながら、前例のないことにも前向きに取り組めるように促しています。

2030年を見据えたデジタル化の3つの指針

——では、御社が描くDXの全体像についてうかがいます。「CHUGAI DIGITAL」の特設サイトでは、志済さんはじめ活動を率いる方々のインタビュー記事や、コンセプトムービーなどが紹介されています。その中で、デジタル技術によって中外製薬のビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターを目指す「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」が2020年3月に発表され、3つの指針が掲げられました。こちらについて、解説いただけますか?

 3つの指針とは、1.デジタルを活用した革新的な新薬創出、2.すべてのバリューチェーンの効率化、3.デジタル基盤の強化、です。まず、全社的な活動にしていくために、トップが何を目指しているのかというビジョンを明確にし、提示する必要があると考えました。トップと社内との間でその認識にズレがあると、会社の経営戦略とかけ離れたところでDXに取り組むことになり、効果も上がらず、社内にも社外にも訴求できません。そこで、最初に小坂からデジタル戦略の推進について聞いたとき、「ではどういった分野で展開していくのか」と尋ねました。

 すると一言「創薬に活かしていきたい」と。ならば、そのわかりやすい思いがビジョンになるべきだし、それがトップの思いそのものだと考えました。前述のように短いスパンの中で仕事をしてきた私としては、10年単位でかかるプロジェクトのどこにデジタルを利かせられるのかがすぐにはわかりませんでしたが、やはり創薬は中外製薬の命であって、この部分のDXなくして会社の成長はありません。そういう危機感と期待をトップ自身が強く持っている、このメッセージは腑に落ちました。

何を目指しどう実現するか、目標と基盤をセットに

——DXの最大の目的をストレートに表現した方針を、第一に掲げられているわけですね。はい。革新的な新薬創出が最終目標です。この前提としてバリューチェーンの効率化とデジタル基盤の強化を掲げています。

 革新的な新薬創出を実現するためには、当然ながら開発に関わるR&Dの費用や業務の効率化を図り、投資を集中させることが必要です。社内を見渡すと、やはり効率化できる部分は多々あったので、業務効率化を挙げたわけです。また「うちの部は関係ない」と思われないように、「すべての」バリューチェーンと記載しました。自分たちも、DXを推進するメンバーなんだと自覚してほしいと考えています。

 そしてすべてのベースとして、デジタル基盤の強化を掲げています。

——目指す姿を掲げるだけでなく、それをどう実現するかの方法もセットでなければ、と。

 そうです。社内からの異動で参画した人も合わせてですが、メッセージを打ち出して新しい組織を立ち上げるなら、メンバーには社内全体でデジタル推進のアクションがとれる状態を用意しなければいけません。全社的な活動ですから、必然的に各部門と協力体制を構築していくことも出てきます。最後のデジタル基盤は、そういった人的な理解と協力体制も含めて挙げています。この3点を並行して推進しなければ、全社DXは実現できないと考えていました。

 中途採用にエントリーしてくれた方々は、特設サイトのビジョンなどもよく読んで下さっていました。これを見て、自分の能力が活かせるのではないかと思ったという声もあり、キャリア採用が比較的順調に進んだ一助になったと思います。

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社外への発信を強化し社内の意識を変えていく

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

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2024/03/21 13:16 https://markezine.jp/article/detail/35743

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