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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

テレビの価値を再定義する――デジタルとの融合で、立ち戻るべき視点

デバイスとコンテンツの垂直統合がはじまった

 テレビという「デバイス」を押さえた次に重要なのは「コンテンツ」の囲い込みです。スイッチングコストのほとんどかからないOTTの場合、見たいコンテンツがなければ、すぐに他のサービスに乗り換えられ、アメリカでは既に「プラットフォーム」のあとに、勝負となるのは「コンテンツ」だということが半ば自明の戦いをしています。OTTの黎明期には、映画スタジオやテレビ局などのコンテンツホルダーはNetflixをパートナーだと考えており、そのプラットフォームにコンテンツを提供することによって収益化を狙っていました。しかしNetflixが巨大化していくうちに、彼らは「プラットフォーム」を押さえられることのリスクに気づき始めます。そして、自分たちで次々と新しいプラットフォームを立ち上げ、コンテンツの独自配信を新しいプラットフォームの差別化ポイントとして育て始めました。傘下にABCやFOXといった放送局を抱え、Netflixでのコンテンツ配信を止めて、自身のプラットフォームであるDisney+を立ち上げたDisneyは言うに及ばず、AT&T傘下の有力ネットワークであるHBOも昨年、HBOmaxというOTTをスタートさせて、順調に加入者を伸ばしています(日本ではU-NEXTにコンテンツ提供)。

 コンテンツで見たとき、日本ではどういう戦いが行われているのでしょうか。「コンテンツ・キング」と言われると、莫大なコストをかけてオリジナルコンテンツを制作しているNetflixを思い出す方も多いかと思います。『愛の不時着』『梨泰院クラス』『全裸監督』などの話題コンテンツを立て続けにリリース、他社からコンテンツ提供を切られたあとも、桁違いの年間1.8兆円(2019年)ものコンテンツ制作費をかけて、良作を生み出し続けています。ただ、その年間1.8兆円という数字は、その大きさから一人歩きしやすいのですが、実はNetflixの視聴時間の63%は他社コンテンツで、自社制作作品の視聴時間は37%にとどまっていること、日本作品の数は2021年でも25作品程度であり、金額は公表されていませんが、1作品が12話×1話1億円の制作費だと仮定すると、300億円程度の制作費となることも、合わせて知っておくべき情報でしょう。1.8兆円によって作られた欧米で人気のオリジナル作品が、日本市場において、よく見られている「コンテンツ」とは限りません。日本での視聴数ランキングでは、地上波や他のOTTでも放映されているアニメ作品の数々が上位に並ぶことも、様々なことを示唆しています。

 一方、日本では在京キー局(5社)とNHKで年間7,600億円(2019年)のコンテンツ制作費をかけています。制作費削減が叫ばれてから久しいのですが、それでも日本市場のみで、これだけの費用がコンテンツに投資されています。もちろん、番組数が多くあり、一つひとつにNetflixのような大型投資ができているわけではありませんが、作品数のポートフォリオは膨大で、話題作を定期的に生み出しています。それに加え、テレビ局の強みは、開局から約60年にわたって蓄積してきた膨大なアーカイブスにもあります。2020年の緊急事態宣言下では特にF1層の間で『逃げるは恥だが役に立つムズキュン特別編』(TBS)、『ごくせん2002特別編』(NTV)、『野ブタ。をプロデュース特別編』(NTV)といった、ドラマの再放送が軒並み高視聴質につながりました。

 データを紐解くと、学生時代に本視聴を見た視聴者が、ひさびさの再放送にも釘付けになる様子がわかります。コロナ禍の中、制作ができない中での苦肉の策だったかと思いますが、思わぬヒントをテレビ局にもたらしました。若年層も、見たいコンテンツがあればテレビの前に座ってコンテンツを視聴することが、改めて明確になりました。こうした背景から「コンテンツ」の面では、日本で最もコンテンツを持っているテレビ局にも戦える要素が十分にあり、コンテンツへの投資額が限定的なグローバルなOTTよりも、大きな強みを発揮できるはずです。TVerのように、テレビ局発のOTTが順調に伸びてきていることも、テレビ局の持つコンテンツの強さを示唆しています。それゆえ、プラットフォームでの競争の中でも、アメリカのようにOTTが完全優勢の状態にはならず、まだまだテレビ放送のパワーが残る部分も大きいでしょう。

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この記事の著者

郡谷 康士(グンヤ ヤスシ)

TVISION INSIGHTS株式会社 共同創業者/代表取締役社長
東京大学法学部卒。マッキンゼー・アンド・カンパニーにて、事業戦略・マーケティング戦略案件を数多く担当。リクルート中国の戦略担当を経て、上海にてデジタル広告代理店游仁堂(Yoren)創業。2015年よりTVISION INSIGHTSを創業し、代表取締役社長...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/05/25 07:30 https://markezine.jp/article/detail/36304

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