テレビCMでなくYouTubeを選択した理由
――はじめに皆さんの自己紹介を、今回の「お金のまなびば!」プロジェクトでの役割とあわせてお話しください。
白水:レオス・キャピタルワークスは、投資運用会社です。投資信託委託業をコアに構え、お客様の資産形成を支援する企業です。私は担当役員として、会社の価値をどう向上するかという視点から戦略を練っています。
当社には2008年より運用している「ひふみシリーズ」という投資信託のブランドがあります。これまでは社内でできる規模の施策を展開してきましたが、販売から10年が経過し、業績も伸びていることを受けて大規模なコミュニケーション施策を実施することにしました。
それで開設したのが、YouTubeチャンネル「お金のまなびば!」です。
深澤:レオス・キャピタルワークスの深澤です。「お金のまなびば!」に関するより実務的な業務を担当しています。
竹谷:Gunosyの竹谷です。今回はプロモーション戦略の総合プロデュースを任せていただきました。
髙瀬:ジェネレートワンの髙瀬です。僕は今回コンテンツプロデューサーとして全体戦略に沿った動画コンテンツの提案や制作を担っています。
タブーにされがちな金融商品への理解を深め、コンテンツという資産を作る
――大規模な広告施策というと、テレビCMなどがはじめに選択肢となると思うのですが、なぜYouTubeの運用を選ばれたのでしょうか?
白水:“お金の話”はタブー視されがちなため、日頃から金融商品の広告コミュニケーションの難しさを痛感していました。
学校教育でも触れることがないからか国民の金融リテラシーは高いとは言えず、いまだに「金融=悪」のイメージをもつ人も少なくありません。加えて投資信託はお客様に理解してもらうのが難しい商品です。短尺で内容を伝える必要のあるテレビCMでは、思うような効果を見込むことが難しいと考えていました。
そんな思いを抱えながらも、代理店選出のコンペではテレビCMを含めた施策の提案を各社にお願いしたのですが、その中でGunosy様が提案されたYouTube施策は、多くの人にリーチしながら、制作したコンテンツを資産として残せるもので、とても魅力を感じました。
竹谷:「数億円の予算で口座を効率的に増やす」というお題をいただいたので、当初は我々もテレビCMが頭に浮かびました。ですが同業他社の例を見たところ、口座獲得とテレビCMの相関があまり見られませんでした。そこでテレビCMに関する提案はすぐに違うと判断したのです。
そこでYouTubeに目が向きました。トヨタ様の「トヨタイムズ」などYouTubeを発信の場として積極的に活用している事例が国内で増えています。また海外事例ではコンバージョンポイントが深く、重要な意思決定をともなう商品に動画を活用するケースも多いことから、レオス様のケースにも有効なのではと考え、動画中心の施策をご提案させていただきました。
深澤:現在「お金のまなびば!」では、様々なゲストをお迎えし、気になるテーマを取り下げて、お金や投資、経済に対する疑問や考え方について楽しくわかりやすく発信をしています。
中でも芸人やタレントさんを交えて語る「マネーキャンプ 金融リテラシーをあげる集い」(動画リンク)は、多いもので100万回再生を超えるものもあり、高い反響をいただいています。
目指すは、金融について主体的に考えたくなるチャンネル
――実際にどのようにプロジェクトが進んでいったのか、ご説明ください。
竹谷:まずは、投資に興味をもってもらう動画づくりからスタートしました。内容については髙瀬様に相談し、いくつか提案いただいた企画の中から、レオスの方々とディスカッションして選んでいきました。
深澤:我々がコンセプトに掲げたのは、“見ている人が自分自身で人生をデザインできるような投資家を増やす”チャンネルです。
お金に関するコンテンツ自体はすでにネット上に溢れていますが、動画を見てすぐに解答が提示されるのではなく、「こういう商品なら自分に向いていそうだな」と金融商品を主体的に考える人たちを増やしたいと思ったので、動画の内容もそれを意識したものになっています。
企画や動画の収録は2020年11月頃からはじめ、動画公開は約2ヵ月後の2021年1月22日でした。
白水:私たちは金融機関には珍しく、WebサイトやSNSを使って中の人の顔を見せるスタイルを大事にしています。手触り感のない商品にお金を払うことが投資への不安要因のひとつだと思うので、ご自身がお金を託している運用者がどういう人なのか可視化することで少しでも不安を解消できたらと考えています。こうした包み隠さず発信するスタイルは、YouTubeでも引き継いでいます。
竹谷:会社として透明性を大切にされているので、チャンネルでは社長であり、プロの投資家でもある藤野様というキャラクターを中心とした構成でつくることにしました。
動画を見てもらうための仕掛けとして、チャンネルをつくって置くだけでは視聴再生数は増えませんので、博報堂様とTrueView広告をはじめ外部媒体への広告出稿を進めていきました。
動画制作のポイントは「通訳」にあり!
――動画制作にあたりどのような点を重視されていたのでしょうか。
髙瀬:意識していたのは、どう“通訳”するかです。
今皆さんが話されたように、レオス様、Gunosy様がもっている意志を、生活者にそのまま伝えても伝わりません。そのため両者の間に入って内容を通訳し、チューニングする役割にあると認識していました。
コンテンツに関しては、「お金のまなびば!」は直接的に商品訴求する場でなく、動画を通して投資への意識を向上させ、最終的に信頼を築いてもらう場所です。なので信頼を与えるコンテンツ制作とその流れのデザインが肝だと考えていました。
あとは、ストックして価値のあるものをつくらなければと思っていましたね。
竹谷:今回は約5億円、テレビCMも十分出稿可能な予算の大部分をYouTubeのコンテンツと広告に投資いただきました。だからこそテレビCM以上の効果が出せるように、コンテンツの質と動画が広がる仕組みを綿密に計算しています。
YouTubeの場合、登録者数を増やしていければ自前のテレビチャンネルに近い機能をもたせることができます。そうすれば会社や商品の発信の場として重要なアセットになりますので、その分慎重にコンテンツは選定しました。
口座開設数は2020年と比べて240%の増加に
――YouTubeチャンネルの運用で得られた成果はありますか。
深澤:元々は口座開設数をどう増やすかといった広告的な思想ではじまったものです。
そのため口座開設数も大事なKPIとして置いていたのですが、しっかりと貢献していることが数値としてわかっています。
2021年5月の口座開設数は2020年と比べて240%ほどでした。他の施策も並行して行っているので、必ずしもYouTubeチャンネルだけの効果とは言えませんが、最大で前月比300%近い数字が出た月もあります。加えて、既存のお客様からも嬉しい声をいただいています。
「動画を見て前よりも商品が好きになった」と言ってくださる方や、証券会社や銀行などの販売提携いただいているパートナーの方から、「良い内容なのでリンクを貼らせてほしい」と言われることもあります。質の高いコンテンツを制作いただけたことで、我々も胸を張って紹介しやすいです。
竹谷:チャンネル登録者数も順調に推移していまして、開始半年で10万人を突破しました。国内の金融系チャンネルとしては最大と言える規模になりつつあります(銀行・証券・資産運用会社公式YouTubeチャンネルのチャンネル登録者数1位:レオス・キャピタルワークス調べ、2021年5月31日時点)。
さらに今後50、100万人へと伸ばしていければ、正しいお金のリテラシーを多くの人が身に付けられることになり、広告施策の枠にとどまらず、社会貢献の側面をもてるようになるでしょう。
また、「こういう動画を見たい」「この部分の内容が勉強になった」など、積極的にコメントをくださるユーザーも増え、新しいコミュニケーションの場所がつくれています。
「金融×エンターテインメント」が織りなすユーザーフレンドリーなコンテンツ
――結果につながった要因は、どこにあったと考えていますか。
白水:ひとつは、意外とYouTubeの中に金融機関が提供するコンテンツが少なかったこと。特にお金でお金を増やす投資のみではなく、広義で投資を伝えているのが他社との差別ポイントになっていると思います。
もうひとつは、「金融×エンターテインメント」といった新しいジャンルの動画を開拓できたことです。金融機関の人が動画をつくると、どうしても使っている言葉も内容も難しく一部の人にしかわからない内容になってしまいがちです。先ほど通訳という言葉もありましたが、まさに生活者と金融機関をつなぐ内容が発信できているのではないかと思います。
加えて、高い運用実績を収めつつ生活者へのプレゼン力に長けた藤野のキャラクター性も最大限引き出せたことで、わかりやすく、模倣されにくいコンテンツができたと思っています。
深澤:元々、藤野をはじめ、社員一人ひとりがイベントやセミナー、動画コンテンツに出演するなど、積極的に情報発信するカルチャーが築かれていたこともここまでの成功要因として大きかったのかもしれません。
当社のメンバーは運用会社として、国内外の投資先の企業に足を運び取材をしているのですが、そうやって実際に多種多様な経営者や担当者と対話しているからこそ語れる企業や経済の話がYouTubeコンテンツに上手くはまったのだと感じています。
竹谷:投資というジャンルは難しくて疎遠なものという印象が強く、そのまま扱うとつまらない内容に終わる可能性があるところ、元々テレビ局で番組を制作されていた髙瀬様をはじめエンターテインメントを知っているチームで取り組めたことが成功につながったのではないでしょうか。
今回の予算規模でテレビを使わないというのは、マーケティング手法としても新しいものでした。テレビでしか活用されない金額で、なおかつPDCAを回して効果を見ることができるわけですから。
しかも広告だけど、邪魔に思われないユーザーフレンドリーなものに感じてもらえる。私自身、広告主の立場にもありますので「こんな広告手法が叶えられるものか」と学ばせていただきました。
髙瀬:最近自分たちのメディアをつくりたいという企業が増えている一方で、軒並み失敗していますよね。その原因は、メディア先行型のやり方にあると思っています。
本来メディアはコンテンツを積み上げていった先にしかできないものです。「コンテンツファースト」という正しい道を進めていることが、良い結果を生み出せているのだと思います。
最適なメディアミックスを実現させていく
――最後に、今後の展望や展開を教えてください。
白水:企業の成長ドライバーとしてこの施策をどう継続させるかが私自身のミッションです。せっかくここまでお客様に支持いただき、意義のあるプロジェクトができているので、外部要因や会社の業績に左右されずにこの先も続けていけるためにどうすればいいのか、その答えを見つけていきたいです。
深澤:チャンネル開設から約半年が経ち、データによる分析が可能になってきました。今後はよりストラテジックに、より最適なメディアミックスを実現させていきたいです。「お金のまなびば!」をメディアとして大きくしていければと思っています。