コロナ禍で二度目のPMFを体験
コロナ禍以前のタイミーは対象領域を物流や小売にまで広げていたものの、依然として中核を担っていたのは飲食であり、売上の約7割を占めていた。コロナ禍では都心部を始め多くの飲食店が従来の方法では営業ができなくなり、当然ながらタイミーもその影響を受けることに。一時は売上も大きく減少した。
ただ、タイミーはただでは転ばなかった。もともと一つだった営業部を「飲食」「小売」「物流」に分け、それぞれの顧客の課題に合わせて提案を調整していった。
たとえば飲食は特に影響の大きかった領域ではあるが、よくみると「デリバリー」のように伸びている分野もあった。飲食店がデリバリーに力を入れるようになると、バイクの免許を持っている人材など新たな採用ニーズが生まれる。そのニーズに合わせる形でタイミーもフォーカスする分野を変え、一度は沈んだ売上を再浮上させることに成功した。
反対に物流はコロナ禍で需要自体が大きく伸びた領域だ。ECの利用が上がり物流倉庫が忙しくなる反面、人手不足の課題を抱えていたままだった。
「3K(きつい、汚い、危険)と言われるように、何となく良くないイメージを持っている人も多く、採用に苦戦していました。でも実際に現場などを見てみると、カフェテリアが設置されていたり、空調管理がしっかりしていたりと労働環境が改善されていることがわかったんです。それならタイミーが役に立てるはずだと思いました。いきなり長期で働くのはハードルが高くても、1日ならやってみようと思う人がいるはず。そこからリピートや長期雇用に繋げていきましょうという話を進めていった結果、事業が大幅に伸び、コロナ禍でも最高益を達成できました」(小川氏)
各業界のニーズに合わせてタイミーが活用され、それぞれで成功体験が生まれていった。小川氏は「もう一度PMFしたような感覚だった」と当時を振り返る。

難しく考えず、コトに向き合う
最後にタイミーでの経験も踏まえた上で、小川氏にPMFを達成するために必要な考え方を聞いた。
「PMFを難しく考えすぎないことが大事ではないでしょうか。言葉が一人歩きしてしまっている部分もあり、必要以上に複雑に考えてしまいがちですが、分解してみると良いと思うんです。顧客に成功体験をきちんと届けられているのか、その結果として継続的に使ってもらえているのか。要はそこをしっかりやりきれているかどうかですよね」と小川氏は語る。
小川氏はタイミーで初期から投資してきた考え方に「カスタマーサクセス」を挙げる。カスタマーサクセス自体は近年SaaS企業を筆頭に外せない考え方となっているが、小川氏が考えるカスタマーサクセスとは「自社サービスに満足してくれた顧客が、他の企業にもサービスを紹介してくれる段階」にまで至った状態を指すという。
「プロダクトの使い方を説明することがカスタマーサクセスの職務ではない。それを通じて顧客が自走できる状態を作った上で、(成功体験を積んだ顧客が)他社に対してまでプロダクトを広めてくれたというところまでがカスタマーサクセスだと思うんです。その意味で、PMFはカスタマーサクセスをしたのかどうかにも近いと考えています」(小川氏)
特にタイミーは継続的に利用することを前提とした月額定額制のサービスではなく、1回あたりの取引手数料を軸としている。企業と個人がマッチングして初めて価値が生まれるので、苦労して企業に導入してもらっても、満足してもらえなければ、リピートされることもなく関係が途切れてしまう。
サービスの構造上、カスタマーサクセスの難易度が高いからこそ、タイミーでは「本能的に大事にしてきた」と小川氏は語る。そして従業員が約140名になった現在、社内でもっとも人数が多いのはカスタマーサクセスであり、今後も投資をしていく計画だ。
「顧客が人に勧めたくなるようなサービスを作れているのか、まずはコトに向き合うことが大切です。そのためにも顧客がどのような課題を抱えていて、何を求めているのか。シンプルではありますが、そこに注力すれば良いものが作れるし、PMFにも近づいていくと考えています」(小川氏)

取材後記
タイミーさんは創業期からよく知っていた会社ではあったものの、外から見ているだけではわからなかった、創業からPMFまでの流れを詳しくおうかがいすることができとても新鮮でした。
3ヵ月でPMFというのは大胆な事業展開ですが、詳しくお伺いすると、「想いが強い業界に照準を合わせる」といった点や、小川さんご自身がいちユーザーとして欲しいサービスを作り上げていたこと、周りに初期のユーザーとなる大学生がいたことなど、いわゆるFounder-Market Fitがある分野を意識的に攻めていたことがわかります。
その後も、初期のマーケットにおいて顧客と向き合いながら課題意識を深めたことが、業務に深く根ざしたサービスへの成長を実現させ、コロナ禍という大きなマクロ環境の変化にも対応できる足腰の強さへとつながっていったのではないでしょうか。
そして、カスタマーサクセスを起点に顧客の成功体験を作り、新たなマーケットへの参入の足掛かりとする事業開発の考え方は、多くの会社にとっても参考になるものだと思います。(SPROUND/DNX Ventures 田中佑馬氏)