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ABMに続くモデル「ABX」を解説!マーケィングの焦点をアカウントの量から「経験」に移行する

コロナ禍で“アカウントベース”のアプローチに変化が

 世界の状況に目を向けてみると、パンデミックにともなう変化とともに、ABMおよびアカウントベースの考え方そのものを再整理する動きが加速しています。たとえばForresterのVP Principal Analystを務めるKerry Cunningham氏は、購買権を持つグループの構造に注目する必要があると指摘しています。

 決定者グループに5~7人が入っている場合、実際の購買前の促進役は2~3人でしょう。そして、BtoBの商談プロセスでは実際に購買まで持っていけるキーパーソンは1名であることが多く、その人にアプローチできるかどうかで、コンバージョンレートに大きな差が出ます。よって、購入意欲と決定権を持たないリードはリサイクル箱に入れるべきなのです。

 また、商談機会のミックスを意識することも重要です。多くの場合、収益ゴールは、新規顧客の獲得とクロスセルおよびアップセル、そして顧客の維持と直結します。どの商談もコンバージョンの率、タイミング、パフォーマンスが異なります。ビジネスのあり方が大きく変わる今だからこそ、これらのトレンドを注視することが収益確保の要となります(引用、抄訳:Why We Have A New Waterfall For 2021 (And Why You Should Care)

 同時に、アカウントベースのアプローチへの期待も高まっています。マーケティングメディアを運営するMRPが、調査会社であるDemand Metricと提携し、2021年4月~5月にかけて世界各国のマーケティングリーダー400人以上を対象に実施した調査によると、次のような結果が出ています。

・全体の96%が「COVID-19の大流行により製品のマーケティングおよび販売方法が変化した」と回答

・大企業の81%が「マーケティング速度やマーケティングミックスの変化に対応するため、ABMへの投資を増やす予定」と回答
・マーケティング担当者の4人に3人(73%)が「COVID-19がABM戦略に影響を与えた」と回答
・事実上ほぼすべての企業(99%)が「今後1年間にABMへの投資を増加または維持する予定」と回答

 なお、マーケターが挙げたABMに関する変化の第1位は、「アカウントプロファイルが変わった(回答者の39%)」でした。大企業ではさらに顕著で、マーケティングリーダーの43%がこの課題を指摘しています。その他の主な傾向としては、「ターゲットに到達するためのチャネルが変わった(28%)」「ターゲットが同じコンテンツに反応しなくなった(20%)」などが挙げられています。出典:Research Provides Insight Into COVID’s Impact on Account Based Marketing

 マーケターが自らのアプローチを再考し、変革することで、競合他社に差をつけ、優位に立つことができると考えていることを示しています。これは上記のCunningham氏が訴える、視点の変化とも同期していると言えるでしょう。

アカウントの量ではなく「経験」に視点を移す

 この5年間のテクノロジーの変化とともに、さらに新たな視点も生まれています。たとえばCampaign Asia-Pacificは、ABMの導入が急速に進む状況を踏まえ、次の段階であるABX(アカウントベースドエクスペリエンス)の導入に目を向けるべきだと提言しています。そして後述するSitecoreのようにABXを実践して成長する先進企業が出てきています。   

 「ABXとは、顧客のライフサイクル全体を通じたコラボレーションを促進するために、重要なターゲットアカウントのためのチームを能力を統合して編成することで、顧客の獲得と維持に無駄のないアプローチを実現するための戦略」と、Sitecoreのマーケティング&ビジネスリーダーVeronica Mikhail氏は定義します。 

 BtoBマーケターはこれまで、ABMの概念とは裏腹に、一対多、一対少数、そして最終的には一対一という真にパーソナライズされたマーケティングを実行できないことに悩んできました。なぜなら、見込み客がソリューションを模索、比較および評価し、意思決定に至るまでに「社内のニーズ」「確保できる予算(コスト)」「実際の解決策(ソリューション)」「導入におけるリスク」といった各要素の関心度合いや重要度が、異なるベクトルで上下、交差することから、どのタイミングでどう見込み客に接点を設けるのが最適かを見極めることが難しいからです。

 また、企業が見込み客にコンタクトする前に、すでに見込客側が多くの情報を収集し評価段階に入っているので、企業がこれまで描いてきた商談育成のプロセス通りに提供するコンタクトやコンテンツが、古い、適切でない、タイミングが悪いといった「共感確立」を妨げるギャップが生じているのです。

 そこで、BtoBマーケター自身が視点を変える必要があると考えられます。マーケティングの焦点を、アカウントの量から、アカウントの経験に移行するのです。たとえばペイドメディアのキャンペーンを実施する場合は、コンテンツ、システム、組織の役割と責任が一致していなければなりませんが、現在のABMキャンペーンの多くは、四半期ごとの固定的な計画に基づいて実施されるに留まっています。それに対してABXアプローチでは、購買ライフサイクルを考慮して計画を策定し、それに合わせて時間的に流動的な計画を立てていきます。

 また、ABMキャンペーンの多くは、同じアカウントが複数のビジネスユニットにまたがってそれぞれのターゲットにされるという、社内の情報分断の犠牲になっています。だからこそ、効果的なABX戦略では、アカウントを中心に据え、行動、特性、きっかけによって、関連するすべての製品やソリューションにおけるアカウントの体験やエンゲージメントを決定するのです。

 マーケティング部門はリード獲得のプレッシャーから、セミナー開催、デジタル広告、新しいキャンペーン実施など施策から考えがちですが、これは順序が逆、と指摘するのは上述の福田氏です。マーケティングコミュニケーションの目的は、見込み客を次のステージに進めることです。顧客ステージを定義した後に、次のステージへ動かすためにはどのような方法が有効なのかを考えるのが正しい順序なのです。

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国内外でのABXの推進事例

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この記事の著者

上瀧 和子(コウタキ カズコ)

共同ピーアール株式会社 総合研究所(PR総研)副所長、テクノロジーリード。現SCSKのマーケティング、現ソフトバンクの広報に従事後、PR業界に転じ、テクノロジーとインクルージョンの知見を柱にグローバル企業のコミュニケーション支援、SDGs・ESG投資推進のシンクタンク運営にあたる。IABC(国際ビジネスコミュニケー...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/10/04 08:00 https://markezine.jp/article/detail/36808

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