ソーシャルリスニングをアイデア開発に用いるポイント
現在ソーシャルリスニング分析の目的の中心となっているのは、自社/競合商品の評価把握や、プロモーション/PRの効果検証といった、企業行動の結果の把握です。新たな価値や商品/プロモーション施策等のアイデアを導く、といったアイデア開発にはあまり用いられていません。
それは、ソーシャルリスニング分析をアイデア開発に用いるほうが、結果の把握に用いるよりも難しい、という難易度の問題があるからです。非構造化状態のぐちゃぐちゃなデータから、新しい兆しの示唆を得るには、通常のやり方では不確実性が高いのです。
一般的に行われているソーシャルリスニングの分析プロセスを見てみます。基本的に、次のような手順を踏んで進められています。

1.キーワード設定、データ抽出
調べたい内容をふまえてキーワードを設定し、ソースから母体となるデータを抽出します。
2.データクレンジング
元となるデータから、必要のない物を除去していく過程です。企業の宣伝や、その他分析に関係のない情報を捨てて、データを「真水」にしていきます。
3.分析
得られたデータを、質的・量的に分析します。量的分析ではキーワードの出現、話題化傾向と時系列での移り変わりなどから深堀るポイントを抽出します。質的分析では、投稿コメントや記事、写真・動画、およびそれに対する反応などからインサイトを抽出します。量的分析・質的分析はどちらか一方だけなく、行ったり来たりして行います。
これが一般的なソーシャルリスニングの進め方です。
このプロセスにおいて、先に説明した難易度の違いに大きく影響するのがキーワード設定です。企業行動の結果の把握を行う際には、自社の商品名や競合の商品名といったシンプルなキーワードの設定によって、必要な情報を収集することができます。
一方、アイデア開発を行うためには、市場に隠れている新しい兆しや、想定外の示唆を得る必要があります。しかし、そもそも新しい兆しがまだわかっていないのに、どのようにキーワードを設定すればいいのか、という矛盾が生じてしまいます。この問題が、ソーシャルリスニングをアイデア開発に活用する際の難しさを生んでいるのです。
私たちデコムは、2009年からソーシャルリスニングを用いたアイデア開発のプロジェクトを提供し続けています。その過程において、このキーワード設定の難しさという課題を克服してきました。ここからその考え方をご説明します。
「仮説の探索」と「仮説の検証」の2段階に分けて分析を進める
まず考えなければならないのは、筋の良い仮説なしにデータの海に飛び込まない、ということ。テクノロジーがあっても溺れてしまうからです。
テクノロジーがいくら進化しているからといって、データにいきなり向かっていこうと考えるのは誤りです。膨大な時間を使っても得られる成果は乏しく、非常に効率が悪くなってしまいます。
そのために考えるべき基本ルールが「人間を見て、数値を見る」ということです。

「n=1の人間を見に行く」ということからまず始めて、何らかの仮説を導き出します。すなわちこれは「仮説探索」のフェーズです。そうして得られた仮説を、量的に検証するの「仮説検証」のフェーズになります。
この順番を守ることが重要です。n=1に目を向け、定性調査によって仮説を手にする。その仮説を、定量調査によって論理的に検証する。この流れが大切です。

仮説の探索として私たちが行っているのは、Webリサーチによる「n=1定性ビッグデータ」の収集です。n=1の消費者の定性情報を効率的に膨大に収集し、そうして得られたn=1の情報から消費者の欲求における「新しい兆し」を発見します。
続いて行うのが仮説の検証です。得られた消費者の「新しい兆し」に基づいて、ソーシャルリスニングのキーワード設定を行い、データを抽出します。この後は、通常のソーシャルリスニングと同じ流れに沿って分析を進めます。
n=1定性ビッグデータ収集においては、これまでの定性調査でインタビューやホームビジット等人間の手を介して行われてきた方法を、人間の手を介さずに行う手法に置き換えることで、筋の良い仮説を膨大に効率的に収集していきます。