競争は企業を幸せにしない
――はじめに御三方の経歴と、現在の活動におけるミッションをお聞かせください。
木下:北の達人コーポレーション代表取締役社長の木下です。弊社では、競合の少ない健康食品や化粧品の中でもニッチな商材を中心にD2C事業を展開してきました。売上100億円を目標としてきましたが達成しまして、今後は売上1,000億円を目指しています。著書『売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密』にも記したように、売上が1,000億円となれば利益として300億円を実現できると見て、事業展開しております。
岩田:イルグルム代表取締役の岩田です。これまでアドエビスという広告効果測定プラットフォームを通して、データを計測できる環境を支援してきた結果、国内トップシェアに成長しました。これからの時代はよりデータドリブンなマーケティングが主流になってきます。今後、広告効果測定領域はもちろん、Webマーケティングに関わるテクノロジーサービスの展開を考えています。
笹井:イルグルムでアドエビスの製品企画チームのマネージャーを務める笹井です。「LTVForecast」における製品企画から、お客様へ「どう価値を届けるか」までをミッションにしています。
「LTVForecast」は2021年6月にリリースした機能です。アドエビスで計測するWeb広告データとECシステムの受注データや広告費、変動費などのコストデータを組み合わせることで、本来であれば実測に1年以上かかるWeb広告施策のLTVを最短1ヵ月で予測できるというものです。それによりLTVに基づく迅速で正確な広告投資判断を可能にしています。
――北の達人コーポレーションは、「競争するよりも新しい市場を作る」というスタンスで事業展開されてきましたが、それはなぜなのでしょうか。
木下:競合から市場を横取りしたところで、GDP(国内総生産)は上がらないからです。せっかく働くなら世の中の発展につながることをしたいと考え、GDPが上がる仕事をするようにしています。
――そのような木下さんのスタンスに対して、岩田さんはどのように感じていらっしゃいますか。
岩田:私も無用な競争は誰も幸せにならないと思っていて、とても共感しています。
企業としても競争にリソースが割かれると利益が出にくくなりますし、そうなると労働環境が悪化していくという悪循環に陥ります。そうならないために各社が知恵を絞って、独自の価値を磨き上げていくことがとても重要です。
D2C市場を取り巻く現状
――ここ数年のD2Cブームや個人情報の取り扱い規制など、D2C市場を取り巻く環境の変化が大きいかと思いますが、それによる消費者動向や事業主側に変化は感じますか。
岩田:確かに市場は盛り上がっていますが長期的なスパンで見ると、集客の難易度はとても上がっていると感じます。
今までは、スマートフォンの浸透などで増加傾向にあったインターネット人口が頭打ちになりつつある上、参入するプレーヤーは依然増え続けているからです。またリターゲティング広告が規制されるようになるので、これからは商品力やクリエイティブなど、メディアのパフォーマンスとは違ったところで集客できる力が重要になってきます。
――木下さんは、事業者側として、そのような変化は感じられていますか?
木下:当社は元々ニッチな市場というか「大手が参入するには小さすぎるし、中小が戦いを挑むには我々が強い」というような市場を選んできました。そのため実はD2Cブームによる新規プレーヤー増加のあおりは受けていません。リターゲティング広告の規制についても、我々はむしろポジティブに捉えています。
リターゲティング広告はクリエイティブ力やターゲティング力が低い企業でも、一定の成果の出せる広告でした。しかし今後はそれができなくなるので、良いクリエイティブを正しいユーザーにターゲティングする必要があります。そういう意味では我々の得意領域なので、相対的に有利になるのではないかと思っています。