インタビューから得た気付きは“あえて”データ化しない
樋口氏は、インタビューをアイデアにつなげるにあたり「自分が感じた“違和感”を逃さず深掘りすることが重要だ」と述べる。

たとえば「1日に何度も服を着替える」と答えた人に対し「なぜそんなに服を着替える必要があるのか」という違和感を覚え、深掘りしてみると「ただ過ごしているだけでは気が滅入ってしまうから、気分を切り替えるために服を着替えている」という答えが返ってきた。ここまで聞いて初めて「インタビュー対象者は日々の暮らしで気が滅入るという課題を持っており、ソリューションとして服を着替えている」ということがわかるのだ。
「カルビーに入社した当時、副社長から『君たちが社内で感じる違和感はたいてい正しい。だから違和感を抱いたら声を上げてほしい』という言葉を贈られました。まさしくインタビューにも同じことが言えます。自分の感覚を信じて、インタビュイー本人ですら気付いていない課題を抽出しようと奮闘しています」(樋口氏)
インタビューを行うのはラボメンバーだけではない。大学生24名から編成される「Calbee Future Labo研究生」にも協力を仰いでいるという。研究生をインタビューに起用した当初は、単に人手が増えることへのメリットだけを感じていた樋口氏。しかしながら、学生が社会人に話を聞くことでより多くの違和感や気付きを抽出できるようになるという副次的な効果が生まれている。
CFLではインタビューから得た気付きや課題をあえてデータ化せず、オフィスの壁面に付箋で貼り付けている。インタビューは主観的であり、人によって情報の厚みも粒度も異なる。「統計的な分析はあまり意味をなさない」と判断し、むしろ徹底して主観的にデータを扱う方針を採っているという。付箋を眺めながら気になる課題があればインタビューでさらに深掘りし、生活者への理解を深めているのだ。

とにかくすぐに試作!高速PDCAの開発プロセス
2,000名の生活者にインタビューし、様々な気付きを得られても「インタビューだけで気付けることは限られている」と樋口氏。商品を試作して実際に食べる段階まで至らなければわからないことが多いため、CFLでは「とにかくすぐに作ってみる」ことを重視しているという。

「アイデアが固まったらすぐに食材を調達して、オフィス内のキッチンで試作。何度かブラッシュアップを重ね、生活者の皆様に試食していただく。この流れを繰り返しています」(樋口氏)
具体例として、樋口氏は食パンに載せて焼くだけで栄養バランスの取れた1品になる「のせるん♪」の開発プロセスを紹介。育児で忙しい親の「子供に栄養のあるものを食べさせたい」というニーズから生まれた商品だ。

「当初『具はゴロゴロしている方が喜ばれるだろう』という想定で、具材を大きめにカットしていました。ところが試作品をお子様に食べていただくと『具が大きすぎて食べづらい』『ボロボロこぼれて服を汚してしまう』などの問題点が見えてきたのです。その結果、細切れにした状態で発売することになりました。試作してみないとわかりませんでしたね」(樋口氏)
のせるん♪の例からもわかるように、CFLは製菓に限定して商品開発を行っているわけではない。菓子以外の商品を製造すると決めた際は、その領域を得意とする他社に協力を仰ぐ。だからこそCFLではパートナーシップを重視。ただ要件を伝えて発注するのではなく、どのような課題を解決するための商品なのかを丁寧に共有した上で、より良い手法を一緒に模索してゆける関係を目指すのだ。