業界で長く使われてきた用語を再定義
――オムニチャネルの実現に向け、立場を超えて目指すべき共通のゴールを設定したのですね。
逸見:はい。加えて、商品、売り場、販促、物流、CS、管理のそれぞれについて、用語の再定義や果たすべき役割の見直しを進めました。これらは小売業界で長く使われてきた用語ですが、従来の捉え方のままでは、現在の生活者の動向や市場環境に合わなくなっている側面があります。そこで小売企業、支援企業を含む各分科会のメンバーが参加し、検討を進めることとなりました。
――議論を通じて新しく見えてきたことはありますか。
逸見:6つの中でも、特に「売り場」の定義は根本的に見直す必要があるとして、活発な議論が交わされました。売り場とは言葉通り、売る場所のこと。ですから無意識に「商品や金銭の授受が発生する場所」というイメージを持ってしまいがちです。
確かに昔は、モノも情報も売り場に集まり、そこで代金を払って商品を受け取っていたため、このイメージは正しいものでした。しかしITとロジスティクスの進展により、お客様は今、リアル・デジタルと様々な接点で商品やサービスに関する情報を得ていますし、小売企業の「売り場」を介さずに、商品や金銭の授受が発生することもあります。つまり、売り場が持っていた流通機能は絶対的なものではなくなり、選択肢の一つとなっているのです。これを踏まえて「売り場とは何か」を次のように再整理しました。
☆流通機能基点での売り場
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        従来の定義(狭義の定義):
流通の3要素(物流・情報流・商流)すべてが収束する場 - 
        現在の市場環境を踏まえた定義(広義の定義):
流通の3要素(物流・情報流・商流)のいずれかが提供される場 
☆DX・オムニチャネル時代の顧客基点での売り場
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        従来の定義:
情報と商品への接触、そして(最終的な)商品の取得を一度の来店で可能とする場 - 
        現在の市場環境を踏まえた定義:
情報と商品への接触、そして(最終的な)商品の取得のいずれか、あるいはその組み合わせの提供を可能とする場 
そのほかの用語も、同様に捉え直しを行っています。たとえば販促については、「これまで短期的な売上向上にこだわりすぎていた」という指摘があり、中長期のイチェーン上にいるすべての主体が目指すべき共通のゴールとして合意に至ったのが、中見先生が言及した「顧客体験価値を向上させること」でした。顧客価値提供によるLTVを意識することに。また、後方支援と位置付けられがちだったCSは「LTVを高めるための顧客接点として重要性が高まっている」「CSのスタッフが持っているスキルセットは、オンライン接客に活かせるものではないか」といった新しい役割の発見がありました。
