デジタル化に必要な「各レイヤーに理解を得られるリーダー」
「DXを始めたものの、PoCが行われ、そこから先に進まない企業の話はよく聞きます。やはり非常に重要だと感じるのがリーダーです」と亀山氏は語る。1.の『デジタルリーダーの採用』について、ベイシアはITの表裏をよく知る亀山氏を迎え入れている。

亀山氏は「リーダーに必要なのは、経営側にDXへの理解を促し、信頼関係を構築すること」だという。
「たとえば社長とDXリーダーが、週次のOne on OneでDXの目的と進むべき方向性の議論をすること、社長に応援団になってもらう働きかけをする、経営会議の中でスピード感を持って小さな成功を連続的に披露することなどが大切です」(亀山氏)
アプリを始めて得られたデータを活用し、経営に対して価値のある切り口で説明するのも良い。たとえば、群馬県の前橋周辺の地図に国勢調査の世帯数とアプリ会員の人数を地図上にプロットすると、集積率の高いエリアが一目でわかる。出店の機会がある地域とロイヤル化が進んでいる地域が判断でき、「このエリアに少し小さめの店舗を出すと集客できるかもしれない」などと戦略に活かせるのだ。
そして各本部に対しては、改善ポイントや意見を常に誠実に見せて、今後の計画を共有する。
「それぞれのレイヤーで新しいことをするのがデジタルですから、コミュニケーションをしっかりと取りながら、みんなの理解を得る。これがリーダーとして大切なことです」(亀山氏)
「継続的なサイクル」としての勝ち筋を明確にする
次に、2.の『デジタル戦略の策定』について「デジタル戦略においては、継続的なプロセス、サイクルとしての勝ち筋を明確にしていくことが重要」と亀山氏は解説する。

ベイシアの場合、『お得で便利な買い物サービスの実現』を軸に、アプリ・ポイントサービス領域、OMO領域、データ領域、サービス領域という4つの領域でサイクルを作った。このサイクルを回すことで、ベイシアは「生活必需企業」として新たな勝ち筋を見つけ飛躍的な成長していく。
ポイントプログラムでは、アプリ内のクーポン発行やマイストア機能でお客様にお得感を醸成し、またPayPayとのアプリ連携を行っている。そして今後、グループでのペイメントサービスや、買い物メモ機能、SAPの口コミ機能などを作りたいという。楽天ネットスーパーや晴れの日受注のサービスを展開するにはOMO領域に会員が増加することが必要だ。「だからこそまずアプリの会員を増やすことが最優先事項です」(亀山氏)。
アプリポイントそしてOMOの領域が進化してくるとデータが加速度的に溜まる。アプリの活用度合をID-POSデータと紐づけてRFM分析をし、ビジネスに活かして行くという。「商品DNA分析という、個人毎の購入履歴の合算から何を重視しているかを可視化する新たなサービスに、来期以降取り組もうと考えています」と亀山氏は語る。また、サービス領域は、他社のアプリサービスやAPIを使い、ベイシアの顧客により便利に楽しくお買い物をしてもらうことだという。
大切なのは、この4つの領域から生まれるデータを棚割や改装、出店、商品の開発など、政策(=経営戦略)そのものに活かすこと。さらにはデータ経営に向けた人材育成も可能になってくる。
「4つの領域はあくまでデジタルの戦略ですが、ゆくゆく政策にどれだけ寄与できるかが、会社の成長に一番切なポイントになってきます。
このようなデジタル戦略を提示し、これが我々の羅針盤であると常々説明することで、このPoCはどの領域のどこの部分のためにやっているのか、もしくはこのサービスは何の事柄を強化する機能なのかなどと全体の理解が進みます。これがデジタル施策を進める上でとても重要なことだと思っております」(亀山氏)