※本記事は、2022年5月25日刊行の定期誌『MarkeZine』77号に掲載したものです。
定期誌『MarkeZine』77号 特集:デジタルで進化するテレビマーケティング
第1回:本格化するテレビ広告のDX──視聴者・サービス提供者・広告主の変化に見る「テレビ活用」最前線(本記事)
第2回:大切なのは、顧客理解×サービス/プロダクトに基づくマーケ戦略。ノバセル田部氏が語る本質的なテレビ活用
第3回:テレビ視聴の浸透、計測の進化──OTT広告が持つ可能性
第4回:テレビマーケティングの進化を支えるサービス群
第5回:キッコーマンソイフーズが語るSAS活用 データを武器に進める「テレビマーケティング改革」
第6回:デジマの経験はテレビCMにどう活きる?「バクラク」のマーケターに聞く
CTVシフトで見えてきた、デバイスとしての「テレビ」の価値
TVISION INSIGHTS株式会社 代表取締役社長
郡谷 康士(ぐんや・やすし)氏東京大学法学部卒。マッキンゼー・アンド・カンパニーにて、事業戦略・マーケティング戦略案件を数多く担当。リクルート中国の戦略担当を経て、上海にてデジタル広告代理店游仁堂(Yoren)創業。2015年よりTVISION INSIGHTSを創業し、代表取締役社長に就任。
本稿では、テレビマーケティングの現在地を「視聴者」「サービス提供者」「広告主」それぞれの変化から読み解いていきます。
まず視聴者の大きな変化の一つとして外せないのは、CTVへのシフトです。CTVとは「インターネットに接続されたテレビ」のこと。テレビのインターネット結線率はここ5年で26.3%から52.1%へと倍増しており、YouTubeやNetflixなどの動画配信サービスをテレビで視聴する人が増加しています(出典:ACR/ex2016〜2021年4〜6月、東京50km圏、男女12〜69歳)。そういう意味で、テレビという筐体は地上波の番組を視聴するだけの役割でなく、動画配信サービスも含めた視聴「デバイス」の一つと捉えることができます。
動画配信サービスをCTVで見る場合、「共視聴」が半数を超える点も特徴です。これはテレビで地上波の放送を見るときと同じように、家族やパートナー、友人と一緒に視聴していると考えられます。ただし地上波放送の視聴態度と異なるのは、「ながら視聴」より「専念視聴」が多いこと。動画配信サービスは目的を持って視聴するケースが多いため、テレビで視聴する場合も集中して見る人が多いと考えられるでしょう。
若年層のテレビ離れに歯止め?地上波における視聴者層の変化
また、もう一つの大きな変化が「地上波の視聴者層の変化」です。一言で言うと、若年層のテレビ離れに少しだけ歯止めがかかり、逆に高齢者層のテレビ離れが少し進んだ傾向が見えてきました。TVISION INSIGHTSの注視率データ(図表1)で変化を見てみましょう。
昨年の後半にかけて若年層や中年層の注視が堅調に推移する一方、高齢層の注視が減っています。「若者のテレビ離れ」と言われていたこれまでの傾向とは反対で、こうした逆転現象はここ数年で初めて見られました。
なぜ逆転現象が起きたのか。これは仮説ですが、放送局が目指す「指標の変化」によるものではないかと考察できます。というのも、従来各局が追ってきた指標は「世帯視聴率」でしたが、昨今はデータ分析の発展によって「コア視聴率」や「注視率」を可視化できるようになりました。放送局側が若年〜中年層を一番のコアターゲットに置き、新しい指標に基づいて若い世代向けの番組を制作した結果、地上波から離れていた若年層を取り戻せるようになったのではないかと考えられます。
放送局は、新しい指標に合わせて番組を作れば視聴者も変化してくれるということに、手ごたえを感じているのではないでしょうか。なので、より新しいデータ分析に前向きになった印象があります。見落としがちな視点ですが、これからも地上波の視聴者の変化に注目していくべきでしょう。