MMMをSaaS化してビジネスプロセスに組み込んだ海外事例
続いて、テーマは「MMMでできること」に移り、中村氏によって海外の事例が紹介された。
取り上げられたのは、コンピューターや携帯電話、電子機器を手掛ける台湾の多国籍企業ASUSの例。数多くの製品ラインナップがある中で、様々な地域や市場に向けたオンラインおよびオフラインのメディアプランニングを行わなければならず、管理が複雑化していたところに解決策としてMMMを導入。クロスデバイス、クロスパブリッシャーでのマーケティングパフォーマンス評価を目指した。
MMMを行う際、一番大事になってくるのは「いかに自社のビジネスプロセスにMMMを組み込めるか」だと中村氏は強調する。MMMのプロセスをSaaS化することでこれを実現している点が、ASUS事例の特異なポイントだ。

たとえば、従来型のMMMでは手動でデータの取り込みを行い、MMMのファーストステップである「データ統合」を行っていた。それが、MMM SaaS導入によって、データベースとAPIで連携し、自動でデータを取り込めるように変わっている。
そして何より、MMM SaaSで出てきたアウトプットは、自動でビジネスプランニングにインプットされるようになっている。ここがポイントだ。
「MMMのプロセス全体がSaaS化されており、いわゆるDX的なアプローチになっています。デジタライゼーションではなくDXと言うだけあって、ビジネスプロセスも変えていて、その中にレビューも入れられている。企業側の努力によって上手くいったケースと言えるでしょう」(中村氏)
この取り組みにより、ASUSはパフォーマンス評価とメディアの最適化をリアルタイムに実行できるように。結果として投資収益率も63%向上し、CPMを30%削減することに成功している。
「利用意向」から売上のリフトを推定!消費者調査から行うMMM
続いて小川氏から、「消費者調査を用いたMMM」という新しい分析アプローチが紹介された。
アプローチ方法は様々あるが、ここで紹介されたのは、直接的に購買増加を推定するのではなく、利用意向の上昇によっていくら売上が増えたかを推定する「利用意向リフトモデル」。セッションでは、とあるアパレルブランドの推計値が紹介された。

利用意向リフトモデルでは、調査で「利用したい」と答えた利用意向トップの群と、「やや利用したい」「どちらともいえない」「あまり利用したくない」「利用したくない」と答えた各群の1年間の購買回数の確立の差分を計測し、「利用意向が高い人を1人増やすと、年間でいくら売上が増えるか」を導き出す。分析には、『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』(著:森岡毅)で紹介されたNBDモデルが用いられている。一般的には、CM接触者群と非接触者群を単純比較して購買増加率を分析するケースも散見されるが、「テレビCMに接触したか否か」という条件のみが異なるような実験環境を整えるのは非常に困難であり、接触群と非接触群の偏りから極端な推定結果になってしまう。その点、小川氏が紹介した分析では、傾向スコア分析(理想的な実験に近い状態を作る因果推論の分析)を使用しており、確かなリフト値を推定することが可能だ。

「このアパレルブランドの分析では、平均の購買単価が5,000円の場合、テレビCMによって254億円分の売上リフトになることがわかりました。このほかにも、利用意向が高い人を1人増やすと、年間で売上がいくら増えるのか? といったこともこの分析で見えてきます。実際にはBIツールを使用した分析ダッシュボードを活用しています」(小川氏)