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“優良顧客”よりも”ファンとの対等な関係作り”を。顧客視点でCRMの全体像を描くフレームワーク

 CRMは企業のマーケティング手法として浸透しているが、これを単なる「ツール」として捉えていると、顧客との深い信頼関係を構築しづらい側面がある。シナジーマーケティングは、CRMを起点としたファンマーケティングを支援する中で、顧客と企業との関係性のあり方とその築き方について知見を深めている。本記事では、同社マーケティングプロデューサー・多々良史弥氏に、これからのCRMのあるべき姿を、象徴的な事例を用いて解説してもらった。

CRM領域の老舗・シナジーマーケティングが新たに掲げる理念

MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに多々良さんの自己紹介からお願いできますか?

多々良:私は2011年にシナジーマーケティングに入社し、CRMプラットフォーム「Synergy!」の導入支援に従事してきました。現在は、クライアント企業と共にCRMに取り組むマーケティングプロデューサーを担当しており、CRMを起点としたデジタル戦略の提案・実行支援などを行っています。

シナジーマーケティング株式会社 マーケティングプロデューサー 多々良 史弥氏
シナジーマーケティング株式会社 マーケティングプロデューサー 多々良 史弥氏

MZ:20年前に創業して以来、一貫してCRM領域で企業のマーケティング支援を行ってきたシナジーマーケティングは、2021年に新たなミッション「Create Synergy with FAN」を定められました。これには、どのような思いが込められているのでしょうか?

多々良:このミッションには、我々とクライアントとの関係だけでなく、クライアントとその顧客がお互いに惹かれ合い、その絆をもとに相乗効果を生み出していきたいという思いが込められています。ミッションと共に刷新したビジョン「人と企業が、惹かれ合う世の中へ。」も我々が目指す世界観を端的に言い表した言葉です。人と企業が対等にコミュニケーションでき、相互に利益を得られる――そんな世界観がCRMのベースにあり、これまでの歴史の中で当社内に根付いてきたものだと思います。

「優良顧客」ではなく「ファン」と捉えるCRM

MZ:CRMというと「顧客との関係性を維持する」というイメージが強く、イコール「ファン作り」と認識しているマーケターは少ないように思います。シナジーマーケティングが考えるCRMとは、どのようなものでしょうか?

多々良:そうですね。CRM=ファン作りと、単純にイコールで捉えているわけではありません。「顧客と企業が親密かつ対等な信頼関係を構築し、結果として相互に利益を持てる関係性作り」がCRMにおいては重要で、この点は今後も変わりません。ですが、近年のCookie情報の規制や顧客の情報発信力の拡大などの変化にともなって、刈り取りよりも育成型、囲い込みよりも持続性が重要になってきています。こういった大きな状況変化の中で、CRM領域でもこれまで以上に自ブランドのファンとていねいに向き合う必要性を感じています。

MZ:「顧客との対等な関係性」「相互に利益を持てる関係性」とは? これらをもう少しかみ砕くとどうなるでしょうか?

多々良:たとえば、インターネット上でなにかしらのインセンティブを受け取りたい時、企業に個人情報を渡したり、メルマガ会員になったりしますよね。これらの行為は、人よっては“仕方なく”やっている部分が大きいのではないかと思います。

 一方、その企業やブランドについてもっと知りたい、常に最新の情報を仕入れたいなどと企業・ブランドを自分の近くに置いておきたいという能動的な想いがあって、自分から企業に個人情報を渡す場合もあるはずです。後者のような関係性だと、企業と顧客の双方に利益があり、またよりフラットな関係性に近いのではないかと思います。

MZ:対等な関係性を築いていくとなると、顧客に対する企業の姿勢にも変化が必要になりそうです。

多々良:ええ。本来CRMは、社内の一部の人が頑張って取り組んで実現できるものではありません。CRMを戦略的に実行する時は、組織で共通認識をもって取り組むことがとても重要になります。このような課題認識から、弊社では「ワークショップ型戦略策定プログラム」などを通して、CRM戦略の策定から実行、組織へのCRM戦略の浸透などをサポートしています。

「顧客視点」でCRM戦略の全体像を描くフレームワーク

MZ:シナジーマーケティングが提供する「ワークショップ型戦略策定プログラム」について詳しく教えてください。

多々良:このワークショップのスコープはクライアントにより様々ですが、たとえば顧客が商品・サービスを認知する前を起点とし、最終的に目指す顧客の姿をゴールとしたジャーニーを作っていきます。特徴は、自社のマーケ環境を独自プログラムに沿って要素分解し、整理していくことで、戦略実行に向けたスムーズな意思決定を可能にすること、そしてそのプロセスをチームで共有することでマーケティング戦略が機能する強固な体制作りを実現することです。

 よく、「3年以内に〇〇回以上商品を購入する」や「〇〇回以上購入して下さったら優良顧客とする」と数値で顧客を区切る会話を耳にしますが、ジャーニーの流れの中で、顧客の感情・心理変化を細かく問いかけていく。そうすることで、顧客視点の施策やメッセージが生まれ、顧客コミュニケーション全般にわたって変化が出てきます。結果としてこのワークショップは、CRM戦略の土台作りにもなっていると言えます。

「ワークショップ型戦略策定プログラム」では、最終的にCRM戦略をこのような1枚のダイアグラムに落とし込む
「ワークショップ型戦略策定プログラム」では、最終的にCRM戦略をこのような1枚のダイアグラムに落とし込む

MZ:一般的なカスタマージャーニーは横イチの直線で表しますが、このフレームワークでは2軸で表すのですね。

多々良:はい。横軸は「不可逆的なもの」と捉えます。たとえば、時間は一方向に進み、戻ることはありませんし、一度経験・体験した物事がお客様の中でなくなることもありませんよね。一方、縦軸は「ブランドとの距離感や好意度」を示します。これは、顧客によって上がったり下がったりすることがある前提です。ですので、縦軸の階段を順調に上っていく方もいれば、どこかで階段を一段降りる方もいる。その分岐のパターンもしっかり作っていきます。

ワークショップ事例:通販ブランドの雄「すっぽん小町」の場合

MZ:実際に、どのような企業がどのようにこの「ワークショップ型戦略策定プログラム」を取り入れているのか、教えていただけますか?

多々良:EC事業者であるていねい通販様とプロサッカークラブ・セレッソ大阪様の事例をご紹介したいと思います。

 ていねい通販様は「すっぽん小町」という商品を長く提供されており、これまでのマーケティング活動の中で、施策もコンテンツも精度の高いものを数多く積み上げていらっしゃいます。ですが、施策の幅が広がるほどに「なぜ、すっぽん小町の販促でこのような施策をやる必要があるのか?」と、関係会社や社内で理解が追い付かない部分も出てきていました。

 こうした課題を受け、社内外でCRM戦略の共通認識を高めたいというご要望があり「ワークショップ型戦略策定プログラム」を実施しました。CRM戦略の全体像を描くとともに、組織への戦略浸透も同時に行う狙いです。

MZ:ていねい通販は、どのようなダイアグラムを描かれたのですか?

多々良:ポイントは、ゴールの手前に「疲れや不安で埋まっていたお客様のキャパシティに余裕が生まれ、自分や周りに優しさを向けられるようになる」というステップを置いたことです。「すっぽん小町」を使い続けることで感じる体調変化ももちろんありますが、顧客の心理変容にしっかり着目できたことで、ブランドならではの表現になった。その結果、「ストレスがなく健康で、ていねい通販との接点が日常化している状態」というCRM戦略のゴールが定まりました。

 一連のワークショップを終えて、ていねい通販さんから挙がってきたのは「毎日隣で仕事をしている人たちが、こんな想いで施策を企画しているとは知らなかった」といった意見です。これらは、第三者を入れて、半強制的にでもこういった機会を設けなければ、見過ごされてしまう部分ですよね。各施策の背景を理解できると、部門間を通して施策に一貫性が生まれてくるので、こうした効果も感じていただけたと思っています。

ワークショップ事例:セレッソ大阪の場合

MZ:CRM戦略を立案するという目的は大前提として、組織内でこうした機会を設けること自体に大きな意味があるのですね。セレッソ大阪は、ファンマーケティングの王道をいかれているイメージですが、どのような課題があったのでしょうか?

多々良:スポーツマーケティングでは、スポンサー営業、PR・マーケティング、グッズの企画、イベントの企画運営など、多くのセクションで連携して動く必要があります。そんな中、全社で連携してファンマーケティングを進めていくのはなかなかに大変です。そのため、集客・グッズ展開・試合の演出などあらゆる面でクラブとして一貫した施策を打つのが難しいという課題が顕在化していました。また、経営層やマネジメント層にいる方々は、それぞれ自分の中に熱い思いや意思を持っていながらも、自己表現の機会が少ないという現場に対する課題をお持ちでした。

MZ:ワークショップを実施して、どのような変化があったのでしょうか?

多々良:現場層の自己表現の機会が少ないという課題がありましたが、実際にワークショップを行ってみると、想像以上に現場のみなさんから意見があがってきたのです。現在は、ワークショップであがった約50の施策案に優先順位をつけて、取り組みを始められています。さらに、目指すゴールやそこまでの過程を部門間を超えて共有できたことで、社内の協力体制が強固になったというお話しも聞いていますね。

 また、我々からはワークショップの議論をもとに「ファンをベースとした企画づくり」「単発施策と中長期施策を組み合わせた『全体構築』」「『ファンがファンを作るサイクル』を実現するためのKPI設計」という3つのポイントに絞り、具体的な改善方針も提示させていただきました。

MZ:ワークショップを行う際、その前段にある「顧客理解」をどれだけできているかが重要になってくると思います。こうした前段階の準備はどうされるのですか?

多々良:セレッソ大阪様のケースでは、ワークショップを行う前段で、顧客理解を目的としたファンアンケートを実施しました。この結果を、独自の研究で開発した「Societas(ソシエタス)」という顧客の価値観を理解するためのフレームワークを用いて分析し、3つのペルソナを作成した上でワークショップを行った形です。前段の顧客理解をどれだけ深くできているかで、ワークショップの質は大きく変わってくるので、こうした調査や分析は重要です。

人と企業が惹かれ合う。同じ世界観を目指す企業に並走したい

MZ:ファン作りは中長期的に取り組んでいくものだと思います。クライアント企業に対して御社はどのように並走されていかれるのか、展望を踏まえてお聞かせください。

多々良:2021年に再定義したビジョン・ミッションにしっかり向かっていきたいという思いが一番です。「人と企業が惹かれ合う」という価値観、世界観に共感し、一歩踏み出したいと思って下さったクライアント企業様に確実に貢献できるよう、自分たち自身もアップデートしていかなければと思います。

 弊社が提供する「Synergy!」をご利用中のお客様を支援していく中で、ファンと向き合い実際に施策を行っていくと、細かな課題がたくさん出てきます。そういった個別、具体の課題に対しても、ていねいにサポートしてきたいと思っています。

本記事では、CRMのあり方と「ワークショップ型戦略策定プログラム」の事例を通して、顧客視点での向き合いについて理解を促していただきました。続く2本目の記事では、「ファンマーケティング」について深掘りし、コンテンツの磨き方や届け方のポイントを具体的に解説いただきます。

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この記事の著者

落合 真彩(オチアイ マアヤ)

教育系企業を経て、2016年よりフリーランスのライターに。Webメディアから紙書籍まで媒体問わず、マーケティング、広報、テクノロジー、経営者インタビューなど、ビジネス領域を中心に幅広く執筆。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2022/07/27 11:00 https://markezine.jp/article/detail/39326