コロナ禍がターニングポイントに
——アイデアで終わらず、実際のアクションにつながっているのが素晴らしいですね。一方で、コロナ禍によりプロジェクトの推進が難しかった面もあると思いますが、その点はいかがでしたか。
正直に言うと、このコロナ禍の2年間は非常に大変な時期でした。そのためコロナ禍で私たちの組織も大きく変化しました。具体例を挙げると、テクノロジーを活用して都市カルチャーの体験価値を向上させた事例があります。メタバース空間に新しいまちを作る渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトです。コロナ禍で文化発信ができない状況になったため、KDDIと観光協会と共同で急遽渋谷区公認の「バーチャル渋谷」を作り、都市の魅力をアピールする取り組みを始めました。
この2年間で都市連動型メタバースは様々な企業が参画し、実験場のような場になって、都市とメタバースのあり方を探る取り組みとして数々の賞もいただいています。ハロウィーンイベント開催の場にも活用して注目度も高まり、「テクノロジーを活用してまちを活性化できる」という自信につながりました。
言うは易く、行うは難し「組織の多様性」を実現するには
——コロナ禍も大きなハードルだったと思いますが、そもそも多数の企業や行政、大学など様々な人が関わる組織を運営するに当たっては、いくつもの壁や衝突があったと思います。多様性のある組織づくりを目指すと口では言っても、実行するのは大変難しいと思いますが、FDSではどのような障壁をどう乗り越えてこられたのでしょうか。
私たちの組織には、私のように外資系企業出身のメンバーもいれば、区役所からの出向者、企業からの出向者などいろいろなバックグラウンドを持つ人が集まっています。企業と一口に言っても、大手印刷会社だったりメガバンクだったりと業種も異なります。そして2年前から採用を始めたプロパーのメンバーもいるので、大きく4タイプの人材で構成されています。
この4タイプは、もともと持っている知識や経験も違えばミッションも異なります。そこをまとめるには、共通のミッションが必要です。
ブレイクスルーになった出来事は、コロナ禍で立ち上げた渋谷区のクラウドファンディングです。小売りや飲食などの商業者が困窮し、遊びに来る人もいなくなるなか、区と一緒に実行委員会を組んでFDSが事務局となり、クラウドファンディングを立ち上げて4,000万円以上の資金を集めました。「まちのためにお金を集め、それをまちに戻す」という1つのミッションを掲げてゴールできたことで、達成感を共有することができました。

——「違うバックグラウンドだから合わない」ではなく、それを前提に一緒にプロジェクトを進めることで目標を共有し、その経験を積み重ねていくということですね。しかし、それを実行するのはやはり非常に難しいことなのではないでしょうか。
正直に言ってしまうと、どの企業からどんな人が出向してくるのか、区役所からどんな人が来るのか、私たちはメンバーを選ぶことができません。特に行政と民間だと、仕事の進め方や目線が違うので、戸惑うこともたくさんあります。
でも、それに怒っていても物事は進みません。むしろ違いを楽しむというか、自分の修行や学びの機会と捉えたほうがいいですね。私もかつては外資系企業でアスリート出身や元DJの社員に囲まれていましたが、今のほうがよっぽど多様性にあふれていると思います。
