紙の雑誌を作ることにした最大の理由は「偶発的な出会い」の創出
MZ:企業ブランディングとしてのオウンドメディアはWebのみで展開されることが多いですが、お二人はなぜ紙の雑誌として出すことにしたのでしょうか。
井口:Webメディアも当然重要なのですが、ユーザーが検索してくれないと出会えないので、既にニーズがある人にしかコンタクトできません。しかし紙媒体であれば、書店やコンビニでたまたま見かけて「今すぐ起業したいというわけではないけれど、少し興味がある」という方々との偶発的な出会いが期待できます。それが紙の雑誌を作ることにした一番の理由でした。

井口:実際に「コンビニでたまたま見つけて買いました」というツイートを見かけた時は、非常に嬉しかったです。起業のハードルを下げるというコンセプトにも適った形だと思います。
また、オウンドメディアを通じたコンテンツマーケティングには競合各社も取り組んでいるはずです。起業・開業について調べている読者からするとWeb上には情報があふれていて、どれを信じて良いかわからない状況にもなっています。そんな中で、読者が本当に必要とする情報だけに絞った読みやすい紙媒体を作ることで、手に取ってもらいやすくなるのではないかと考えました。
川久保:当社では、先に「XD」というWebメディアを運営していたのですが「オンラインだと忙しいマーケターの方々にはなかなか読んでいただけない」と感じていました。そこで、2019年にWebメディアの記事を再編集した紙媒体を制作。KARTE Friendsに郵送したり、直接会った人やイベントの来場者に渡したりしたところ、Webメディアを読まない層にまで届き、手応えを得られました。
ただ、元々Web記事だったものを後付けで特集へと仕立てることに、徐々に限界を感じていきました。「やはり紙媒体用に取材をしないと難しいな」と考え、Webメディアとは別に独自取材を基にした紙媒体のXD MAGAZINEを発行することになったのです。
ブランドの世界観が伝えられる
MZ:潜在層の読者と出会えること以外にも、紙媒体ならではのメリットは感じていますか。
川久保:Webメディアは読者が主体性をもって読むものなので、こちら側に「この記事の次はこの記事を読んでほしい」という思惑があっても読み手をコントロールすることはできません。一方、紙媒体は1つのパッケージとして届けることができる点に強みがあると思います。我々の意図した順番や体裁で、ブランドが目指す「世界観」を伝えることができるのです。

井口:「紙媒体が下火になりつつある」と言われていますが、元が強すぎただけで、作ってみたら「やはり強いな」と思いました。実際、当社では反響の大きさを実感しています。起業・開業関連の情報は法律などが絡むこともあり、どうしてもコンテンツ量が多くなりがちです。そんな中、起業時代はあえて情報を絞り、厚みが出ないよう薄く作っています。紙の本は厚みで情報量が視覚的に伝わるため、読者の起業に対する心理的なハードルを下げる効果が期待できるからです。
ただ、当社も紙の雑誌だけで完結しようとは考えていません。2022年6月に起業時代のアプリを出すなど、読者のシーンやタイミングに応じて適切な媒体を選べるようにしています。Webと紙で総合的にやっていくことが重要だという考えです。