ブランド・社会・生活者の交わる点を探す
──海外の取り組みから可能性を感じていたんですね。しかしながら、社会課題を起点にしたキャンペーンは、設計次第では炎上につながるなど、他のキャンペーン以上に気を配る必要があると感じています。大倉さんはどのような点に気を付けてキャンペーンを設計していますか。
一番重要なのは、ブランド・社会・生活者の3つが重なる点を見つけ出すことです。自分のブランドとまったく関係のない社会課題を解決しようとすると、表面的で無理やり感が出てしまいますし、炎上の危険性が高くなります。
また、ただ言うだけではなくて、実際の行動に落とし込むことも大切です。もちろん、声を上げるだけでも難易度は高く、メッセージの発信自体に価値があることもあります。しかし、その社会問題に対してメッセージを発信しているだけで、行動がともなっていないと、生活者はすぐに見抜きネガティブな反応を示してしまいます。
私がパンテーンを担当していた際、髪にまつわる様々な社会課題にアプローチする「#Hair We Go さあ、この髪でいこう。」を立ち上げたのですが、その際もメッセージ発信だけにとどまらない活動を心掛けていました。具体的には、令和元年の内定式に向けて、139社の企業から賛同を集め、「内定式に、自分らしい髪で来てください。」とメッセージを発信しました。
これもゼロから様々な企業の人事や社長に交渉して、各社からロゴやメッセージを集めるなど、地道な活動を怠らないことで「このブランドは本気なんだな」と生活者に思ってもらうことができたからだと考えています。
ビジネス成果につなげてこそ意味がある
──ブランド・社会・生活者の接点を見つけるとのことでしたが、どの順序で掘り下げていくのがいいと思いますか。
最初は、自分のブランドやビジネスの課題から入るべきだと思います。ビジネスをやっている以上、売上と利益を上げることからは逃れられません。最近ではブランドパーパスを立てる企業やブランドも増えていますが、それもビジネス課題に紐付いていないと結局継続できない上に、社会にインパクトを与えることができません。
ブランドやビジネスの課題が見えてきたら、生活者とブランドの接点を探る。そして「2つの接点と交わる社会課題は何か?」を考えるのが順序としては良いと思います。できれば同時並行しながら何周も思考するのがベストですね。
──自社のブランドの理解がなければ、社会や生活者との接点を見つけるのも難しいですよね。
どのブランドにも、ブランドらしさがあるはずです。パーパスを立てていなくても、ブランドの原点や昔から大事にしてきた要素がきっとあると思います。そこを出発点に考えると、ブランドにも良い影響を与えてくれるでしょう。
そして、社会課題を起点にしたキャンペーンでは、生活者の共感が欠かせません。生活者が抱えているジレンマやインサイトを捉えて、それらを表面化するメッセージを作る必要があります。
──ちなみに、このような社会課題を起点にしたキャンペーンの場合、中長期で計画を組んでいましたか?
いや、むしろスモールスタートで一度試してみるほうが良いと思います。この手のキャンペーンに対する反応は、他のキャンペーンに比べても予測が難しいためです。私が携わったキャンペーンも1回目は規模を抑えて実施し、その反応で確証を得てからシリーズ化していきました。
──その他に気を付けるべきことはありますか。
今回の特集になっているターゲティングの話につながりますが、従来のターゲティングの発想から脱却する必要があると思います。自分たちが思い描く顧客をターゲティングしてプッシュする広告・コンテンツだけでは生活者に嫌われるのみです。ターゲットとしている生活者に役に立つ・助けになる、そういうマインドでターゲットに届けるコミュニケーションが求められていると思います。