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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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ダイバーシティから考える、新しいマーケティング・コミュニケーションの視点

マーケティングとは、人付き合い。 炎上事例から学ぶ、DE&Iへの向き合い方【後編】


【解説】社会編集力は「新しいリアリティの創造」

 目に見える、見えないに関わらず、障がいを持つ人の割合は米国では人口の約26%(4人に1人)、日本では約8%と言われています。超高齢化や閉塞的な社会の雰囲気、そして世界的な様々な危機が背景にある今、自分自身なのか、家族なのか、友人なのか、同僚なのか……障がいや何かしらのマイノリティの側面は、すべての人にとってさらに身近なものとなってきています。

 しかしながら、どうしてもメディアでの表現は、マイノリティの経験を犠牲にするような「インスピレーション・ポルノ(感動ポルノ)」に傾注しがちであるという事実は否めないように感じています。

出典:ニールセン「障害の可視化。広告における障害者の描写」

 影響力を持つ企業やメディアは、多様性を前提とする今日、ポジティブにもネガティブにも「社会を編集する力が強い」ことを自覚する必要があると、対談の中で澤田さんが強く述べています。そして、「社会編集力は新しいリアリティの創造」というキーワードも出てきました。マイノリティの視点から世界を見たときに、今まで見えなかった新しいリアルな世界を表現できる可能性を、メディアや企業側は多く持ち合わせています。

 本質的な当事者起点のアプローチによって、世界の方から当事者に歩み寄れる環境を創ることができるかもしれません。澤田さんの言葉から得られたヒントを元に、2つの切り口から「新しいリアリティを創造する」社会編集力に必要な要素を考察したいと思います。

「令和元年版 障害者白書(全文)(PDF版)」

1、「人付き合い」のためには、徹底的に知る責任が伴う

 ニールセンの調査では、障がいを持つ人の50%近くが、テレビで自分のアイデンティティグループが十分に表現されていないと感じていることがわかっています。マジョリティが一方的に表現するマイノリティは、本質的な視点を捉えていない可能性が高い事実が現れています。

出典:ニールセン「障がい者のインクルージョン・ギャップを解消するために」

 「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」という概念は、心理学者のアルフレッド・アドラーの根底に流れるものです(出典:『幸せになる勇気』ダイヤモンド社)。澤田さんの言葉を借りるのならば、DE&Iを軸に新たな社会を編集したいと考えるマーケターは、まずは「人付き合い」のあり方を一度振り返る必要があるかもしれません。対人関係において、自分自身が一人の人間として、そして多様な個人それぞれの「その人らしさ」を受け入れ尊重することができるのか。その理論的帰結は「他者の関心事に関心を寄せる」ことである(*4)と、前途のアドラーの概念からは述べられています。

 息子さんの障がいがきっかけで、障がいを持つ方の視点を「知りたい」とリサーチを始めた澤田さんは、200人以上の当事者と実際に会っています。当事者の関心に寄り添った徹底的なリサーチのうえでしか見えない、当事者視点があるように思います。誰もが当たり前の生活を営む中で見つめる、その人にしか見えない「関心ごと」を見つめること。そこに新しいリアリティ創造のヒントが隠されているのではないでしょうか。

2、責任(レスポンス+アビリティ=応答可能性)のためは、継続的な対話が必須 

 責任という言葉は、英語では「レスポンシビリティ(responsibility)」ですが、これは「 response」と「ability」を組み合わせた「応答+可能性」という、キリスト教の概念がその源であると言われています。つまり責任を持つことは、誰かや何かの声や呼びかけに反応、応答できる可能性を示しています。

 日本では責任というと、失敗した本人が謝罪をしてその責任を証明することに徹しているイメージもありますが、「責任」を「応答可能性」と捉えて時にはどうでしょうか?
記事内でも取り上げた「Superhumans」の事例を考えたとき、当事者と対話し、反応し続けた責任の結果が、新たな側面を表現した「Super. Human.」であるように感じました。

 また、澤田さんが代表理事を務める、一般社団法人世界ゆるスポーツ協会の取り組みは、当事者との「対話と反応」からの創造を具体的に見ることができます。

 たとえば、ゆるスポーツ×ヘルスケアの「トントンボイス相撲」。年齢を重ねた結果の「衰え」という現実は、もちろん怖くも、悲しくもあります。ただ、そういったこちら側の「バイアスがかかった感情」ではなく、実際に高齢者の当事者が、どんな不都合があるのかをしっかり対話をし続けた先に、「喉の機能の低下」という課題への理解という応答と、課題を前向きに解決でき楽しめる、新しい「トントンボイス相撲」というスポーツの創造につながっているように思います。

 最初は少し小さく声を発している高齢者の皆さんが「トントンボイス相撲」というスポーツの魅力に入り込み「トントントントン!!」と段々と大きな声を発するようになり、イキイキと「ゆるスポーツ」を楽しむ姿に、既存の価値判断にとらわれない新しいリアリティの創造を感じることができました。

だれかの「弱さ」は、だれかの「強さ」を引き出す力

 澤田氏の著書『マイノリティデザイン』(ライツ社)で、個人的に一番好きな言葉が『だれかの「弱さ」は、だれかの「強さ」を引き出す力』というものです。私たち一人一人が本質的には多様であり、すべての人が実は小さくても大きくてもマイノリティの部分を抱えているはずです。もちろん「強さ」もある一方で、自分の「弱さ」は決して、社会にネガティブなものではないし、ひょっとしたら誰かの「強さ」を引き出せる存在なのかもしれない。そして、自分の「強さ」は、ひょっとしたら誰かの「弱さ」をサポートできるものかもしれない。そんな風に考えると、誰もが自分自身の弱さも強さも抱きしめて肯定できるように思います。

 自分自身を含めた、すべての人の弱さと強さのためにも、「知り続けて」「対話し続ける」。社会を編集する力を持つ強い存在である企業だからこそ、そのことを意識し続けて欲しいと強く感じた対談でした。

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この記事の著者

白石 愛美(シライシ エミ)

コーポレートコミュニケーション コンサルタント
株式会社Amplify Asia 代表取締役
株式会社YUIDEA 社外CMO

WPPグループにて、リサーチャーとして主にマーケティングおよびPR関連プロジェクトに従事。 その後、人事コンサルティング会社、電通アイソバーの広報を経て、ダイバーシティを起点に企業のマーケティングをサポートする株式会社Amplify Asiaを立ち上げる。2024年10月より、YUIDEAの社外CM...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/10/20 12:04 https://markezine.jp/article/detail/40015

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