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ダイバーシティから考える、新しいマーケティング・コミュニケーションの視点

マーケティングとは、人付き合い。 炎上事例から学ぶ、DE&Iへの向き合い方【後編】


マーケティングとは、人付き合い

白石:ダイバーシティとひとくちで言っても、当事者のすべての方にフィットすることなんて絶対ないですよね。だからこそ、真摯に向き合って考え続けていく、当事者と対話していく姿勢が大事なのだと実感しました。その継続性があって初めて企業の意思が伝わるし、そうでなければうわべだけの“ウォッシュ”になってしまう。

澤田:まさに。企業は、とかく「乗り遅れないようにしよう」「他社がやっているからうちもやろう」と流行に乗りがちだと思います。ただその際、意図的にというより、他社に後れを取らないためにリサーチの時間を惜しんでしまうことがよくあります。DXやAIやメタバースはそれでいいのかもしれませんが、DE&Iは歴史があるので、切り分けて考えるべきではないでしょうか。

 企業活動もマーケティングも、基本的には誰かに向けた取り組みで、つまり人付き合いの話ですよね。DE&Iなら、たとえばマイノリティにどう向き合っていくかという話になるし、それをマーケティングに生かすにしても、人付き合いを前提と考えたら、キャンペーンみたいに「3ヵ月限定」というのはあり得ない。DE&Iにおいては、それは最も受け入れがたい態度だと思います。

白石:同感です。私、澤田さんの『ホメ出しの技術』(宣伝会議)で「借り物の言葉、置物の言葉、生き物の言葉」という3つの言葉の種類があるという話にとても共感したんですね。今おっしゃった、DE&Iにも流行りに乗って着手するようでは、コミュニケーションで使うのも借り物の言葉になる

 たとえばパーパスなどを策定したはいいけれど、上辺だけだとまったく響かず、ただそこに置かれているだけの置物の言葉になってしまう。そうではなく、作る側の多様な一人一人がきちんと勉強してかみ砕いて理解し、さらにはアップデートされ続けるのが、生き物の言葉だと。DE&Iでは特に、メッセージが「生き物の言葉」になっているかどうかが問われると思いました。

澤田:そうですね。マーケティング活動全般にいえますが、借り物の言葉や置物の言葉を使っているケースが非常に多いと思います。DE&Iでも、共生社会だとか合理的配慮といった、「耳障りがいい」という理由で企業で使われている言葉がたくさんある。

 それに対して生き物の言葉とは、自分の中から出ている言葉で、相手と関われば関わるほど変化していくんですね。

 先ほど(前編)で紹介した、英・チャンネル4が「障がい者も普通の人だ」とCMを刷新した事例では、まさに「Superhumans」から「Super. Human.」へと言葉が変化しました。当事者と対話していったら、生き物の言葉にならざるを得なかったのです。自社のDE&Iの取り組みは何のためなのか、マイノリティも含めてどういう社会にしていきたいのかをちゃんと言語化すれば、おのずと生き物の言葉になると思います。

顧客を“記号”と見るマーケターに陥っていないか

白石:マーケターは強い社会編集力を持ちえるからこそ、「マーケティングは人付き合い」という意識がこれからますます求められるように思います。チャンネル4の話で挙げられたキーワードのひとつ、応答可能性があることも、人付き合いなら当然ですね。

澤田:人付き合いだと思えないなら、DE&Iでマーケティングを、などと考えるのはやめたほうがいい。もう今、生活者も上辺だけのメッセージはわかります。たった1件の不勉強な施策をきっかけに炎上し、それまで相当なコストをかけて企業が積み上げてきたブランドが一気に崩れることも実際に起きています。

 企業の中に本当にDE&Iに取り組みたい人がいるなら、決してキャンペーン型ではなく、長期的に進められる仕組みや組織を作るべきです。批判が起きたときにしっかり自己批判してチューニングし、次のアクションにつなげられるかどうかもポイントです。

白石:同感です。マーケターやクリエイティブの仕事に関わる人は、自身の力をマイノリティの方々の話を編集する力に変えて、社会と掛け合わせることがもっとできると思います。そうした動きが広がるといいですね。

澤田:僕の周りで、素敵な仕事をするなと思うマーケターって、相手を“記号”として見ていないんです。むしろ、様々な括りやカテゴリーを解体しています。

 従来は、企業視点で生活者をターゲティングして、効率的なマーケティングができる人が重宝されてきましたよね。その発想だと「囲い込む」とか「刈り取る」というワードも出てくる。けれど、これからはむしろ、社会に作られてしまった記号をいかに解体できるかという点が、素質として問われてくるはずです。

 僕の好きなマルティン・ブーバーという宗教哲学者が、著書『我と汝(なんじ)』(講談社)で「我、汝」と「我、それ」という2つの関係性を提唱しています。マーケティングの観点で語られているわけではありませんが、顧客を記号として、対象として見るのはまさに「我、それ」の態度だなと。そうではなく、マーケターに必要なのは「我、汝」=私とあなた、の関係なのだと思います。

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この記事の著者

白石 愛美(シライシ エミ)

コーポレートコミュニケーション コンサルタント
株式会社Amplify Asia 代表取締役
株式会社YUIDEA 社外CMO

WPPグループにて、リサーチャーとして主にマーケティングおよびPR関連プロジェクトに従事。 その後、人事コンサルティング会社、電通アイソバーの広報を経て、ダイバーシティを起点に企業のマーケティングをサポートする株式会社Amplify Asiaを立ち上げる。2024年10月より、YUIDEAの社外CM...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/10/20 12:04 https://markezine.jp/article/detail/40015

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