共感を呼ぶCMと炎上するCM、その違いは?
白石:先ほど(前編)、澤田さんが「ゆるスポーツ」などの企画を進められる際、まずは当事者の方のお話に全身全霊で耳を傾ける、とおっしゃったのがとても印象的でした。
そもそもバイアスがかかった視点で見てしまうとか、実態や気持ちをわかった気になっていることに気づかないままだと、たとえば広告でも意図するメッセージが伝わらず、むしろ裏目に出てしまったりしますよね。
澤田:そうですね。しっかり傾聴し、勉強すれば、違ったアウトプットになったんじゃないかと思うこともあります。
白石:たとえ「応援したい」という気持ちでアプローチしていても、想定と違ってネガティブに受け止められてしまうのは、作り手側の多様な視点の不足がひとつの要因になっているのだろうと思います。
たとえば、子育て中の母親にフォーカスしたCMで、ひとつは好意的に受け入れられ、もうひとつは炎上してしまった事例を挙げてみます。同じように見えて、世の中への響き方が大きく違いましたよね。
パンパース「キミにいちばん」
ムーニー「moms don't cry」
ムーニーが贈る、はじめての育児に奮闘するママへの応援歌「moms don't cry」植村花菜さんの歌声にも注目!子育てのリアルを描く動画に共感された方はぜひRTを。#育児 #共感 #0歳ママ #ムーニー #きみとママのはじめてに pic.twitter.com/rniLCMjAJI
— moony promotion (@moonypromotion) April 19, 2017
白石:どちらも乳幼児がいる日常を描いていますが、パンパースが母親だけでなく父親や周囲の人、通りすがりの人まで出てくるのに対し、ムーニーのほうはずっと母親が世話をしているシーンなんですね。それこそ先ほどお話されていた、ある種のマジョリティ側の視点を軸に、子育てを表面的に描いているような……。当事者の気持ちに寄り添うというよりは、「子育てのあるべき姿」を押し付けられているようにも個人的には感じてしまいました。
マジョリティが持つ、歪んだマイノリティへのまなざし
澤田:おっしゃるように「マジョリティが、勝手に思い描くマイノリティ像に働きかける」というのは炎上の種になると思います。そして、それはCMやマーケティングに限らず、様々なところで起きています。
パラリンピックのスローガン「共生社会の実現」もそうだし、SDGsの「誰一人取り残さない」も、どうにも上から目線に感じませんか。自分マジョリティ、あなたマイノリティ、さあ助けてあげましょう、という歪んだまなざしがある。それは、双方にとっていい結果を生みません。
僕が企業の方から「DE&Iでマーケティングしたい」といった相談を受けるときは、そんな話を必ずしています。自分たちがマジョリティで影響力が強いこと、知らず知らず格差に加担してきたことを自覚して、その上で障がい者なり女性なり、当事者の立場や課題や気持ちをよく知ること。マーケターってリサーチャーでもありますから、まずはリサーチから始めるといいと思います。
白石:先ほどの「知る責任」をしっかり果たすということですよね。そこがしっかりしていれば、最終的なアウトプットの幅も広がるように思います。私は「ユーモア」の扱い方って実はすごく大切だと思っています。
たとえばゆるスポーツも、最終的なアウトプットにクスッと笑えるような要素が入っているからこそ、「参加してみたい」「もっと知りたい」と思えるところに繋がっているように思います。ユーモアがあることで、扱いの難しいテーマでも、「知る責任」を促せる仕掛けもできるような気がしているのですが、どうでしょうか?
澤田:そうですね。土台さえあれば、ユーモアの役割は大きいです。ある場所にユーモアが投じられると、その状況を客観視できますよね。それまで舞台にいたのが、一瞬、舞台の観客席に回って状況を俯瞰でき、それまで頭を抱えていたことも急に滑稽に見えたりする。DE&Iに向き合うとき、見通しをよくするために有効だと思います。
ただし諸刃の剣で、DE&Iの文脈をしっかり理解していないままライトな方向へ振ると、炎上の可能性が高くなると思います。