顧客目線で挑戦するブランドECサイトとPARCO店頭とのOMO
アプリの外に顧客接点を増やすための施策として、PARCOに出店しているブランドショップの公式ECとPARCOの店頭においてOMOを行うPoC(実証実験)も行ったという。
「ブランド様のECで売れても、当然PARCOに“家賃”は入りません。しかし、お客様にしてみれば、PARCOの店頭で良さを体験したブランドについても、そのブランドの最高の体験をオンラインでしようとしたら、当然PARCOのオンラインストアよりブランド様のECで購入したほうが良いと考えました。それなら、お客様の行動を邪魔せずにブランドECでもPARCOポイントを付与することで、PARCOの来店率を上げられないかと試みました」

第1弾の成果として、エントリーした上でそのブランドのECを利用したユーザー、すなわちPARCOポイントを獲得したユーザーは、全体の2.6%になったという。
数は予想よりも少ないものだったが、付与したPARCOポイントの有効期限60日以内にもう一度来店して購入したユーザーは、特典ポイントを付与したユーザー全体のうち45.7%となった。それ以外の54.3%はすべてPOCKET PARCOを使っていなかった顧客であったため、POCKET PARCOを使っている顧客の再来店率は高かったことになる。
店頭POPのDXでコンテンツのリッチ化とリソース削減に
店頭で使っている紙ツールをデジタル化するPoCも行っている。
「紙のPOPを作り、ショップの店頭に持って行き、終わったら改修して廃棄する。この業務をデジタルに移行すれば、紙の削減につながりますし、スタッフの作業量の削減にもつながるのではないかと考えました」

第1弾として店頭に電子モニターを設置してみた結果、運用上の課題が見えてきたという。
「POPをデジタル化することで、コンテンツのリッチ化、廃棄物削減、印刷代や廃棄コストの削減、店頭の美観維持はすぐ結果が出せそうです。スタッフの労務軽減効果については、まだ検証の余地があります」
現在、第2弾として実施しているのが、デジタルPOPの視聴率調査だという。紙POPとデジタルPOPをそれぞれ変えて、どちらも視聴率調査をする試みだ。現在8店舗、コスメ系を中心に増やして実施中で、11月末まで実施する予定だという。

「PARCOは元々フィジカルメディア、すなわち実店舗が強い会社です。実店舗のお客様との接点としてデジタルツールを各テナント様の店頭に置くことで、とても大きなデジタルメディアになる可能性を示せると考えています」
このPoCはパルコデジタルマーケティング社と共に行っており、この取り組みをパッケージ化した商品をリリースしている。Webカメラを設置し、紙POPとデジタルPOPの視認数をそれぞれ計測することで、効果検証が可能だ。
デジタルだけでも楽しめるPARCOへと再構築する
これまでの取り組みで、ID顧客が対象のアプリを中心としたCRMとしてはひとまず仕組みとサービスが構築できたと考えている北山氏。今後はどのような展望を描いているのか。
「ID顧客様のデータの取得やコミュニケーションの部分は、これからより本格的に手がかけられる段階です。一方で非ID顧客様に対するCRMは、まだまだ着手ができていないという感覚があります」
PARCOではLINE公式アカウントを開設しており、700万人以上の会員が抱えている。非ID顧客向けには、LINEをはじめデジタルのコミュニケーションを通じた体験を強化していく考えだ。
「今後は非IDのお客様との体系的コミュニケーションを構築して、ID顧客化だけでなく、非ID顧客のままでも楽しいサービスにしていくことを目指します。フィジカルだけでなくデジタルでも楽しいPARCOを再構築し、そこを起点にお店に来ていただくコミュニケーションを目指したい。それができるのがCRMの真価であると考えています。『PARCOと一緒に何かやりたいな』と思う方がいらっしゃれば、ぜひご連絡いただければ幸いです」

CXを追求する上で、欠かせないCRM。顧客のデータから見えてきたものを、実際にサービスやPoCで形にしていくことで、新たな顧客接点・体験が生まれ、それが価値につながっていく。リテールやプロパティビジネスにおける新しい世界が垣間見えるセッションだった。