「本能レベルで求められるために」丸亀製麺の戦略
続いて特別対談「丸亀製麺の成功事例から学ぶ、顧客起点のマーケティングとその新潮流」がスタート。トリドールホールディングスの南雲克明氏と、アビームコンサルティングの本間充氏、そしてSAPジャパンの高橋佳希氏が登壇する。
インターブランドジャパンが発表した「顧客体験価値(CX)ランキング2022」で1位を獲得した丸亀製麺。本間氏は「価格が手ごろな商品を扱う外食企業のデータマーケティングについて、聞ける機会はなかなかないもの。ぜひ参考にしていただきたい」と語り、南雲氏にマイクを渡す。
南雲氏はまず、丸亀製麺のマーケティング戦略を次のように紹介する。
「丸亀製麺におけるマーケティングの目的は、顧客を“集めること”ではなく“創造すること”にあります。おいしさで選ばれるのは当然。感情でも選ばれるブランドになるべく『食の感動体験提供』を追求しています」(南雲氏)
食の感動体験とは、どのようなものなのか。丸亀製麺では「感覚」「感情」「本能(脳)」の順で顧客に訴え、最終的には「本能レベルで欲しい」と思ってもらえることを目指しているそうだ。ブランドの誕生から20年以上、この順番を軸にアップデートを加えながら戦略を進化させてきたという。
本能レベルで求められるために、顧客の左脳(理性)と右脳(直感)の両方に訴えかける施策を実施。「味や食感などの機能的価値だけでなく、うどんを作っている様子や食べる空間など、五感に訴える情緒的価値も合わせた感動体験をUSPとして置いている」と南雲氏は語る。
顧客の感動を高めるためにデータを活用
機能的価値と情緒的価値に加えて、丸亀製麺が追い求めているのは「顧客が丸亀製麺とつながっている価値」だ。店舗内だけでなく、外での体験を通したブランディングも行っているという。ブランドとしての姿勢や、おいしさを追求する作り手の姿を様々なチャネルで発信。「こんなに頑張っているなんて」と、共感や好意を丸亀製麺に向ける顧客は多いそうだ。
「様々なところで“おせっかい”な人のぬくもりを感じていただき、唯一無二の顧客体験価値を提供する。これが、丸亀製麺の目指すマーケティングのあり方です」(南雲氏)
丸亀製麺のマーケティングの土台にあるのはデータだ。感性マーケティングとデータドリブンマーケティングを組み合わせ、アジャイルに回しているという。「データと五感は一見すると対立軸のように思える」という本間氏の疑問に対し、南雲氏は次のように回答する
「アンケートのデータを基に『どうすればお客様の感動を高められるか』を分析しています。たとえば、丸亀製麺の店舗ではオープンキッチンを採用し、麺を茹でる釜や目の前で調理する手仕事をお客様に見ていただけるよう、レイアウトにもこだわっているんです。これらの工夫には、五感と感情に訴えかける狙いがあります」(南雲氏)
顧客体験価値を高めるため、丸亀製麺の社内では”DX for CX”という標語を使っているそうだ。南雲氏は「当社のビジョンは『顧客体験No.1』。DX戦略も人事もマーケティングもすべて、ビジョンを達成するために設計している」と、標語に込めた意図を説明する。
そのほか、NPSを指標として活用しながら「どこがどう上がると顧客満足度や売上の向上につながるのかを測っている」と語る南雲氏。様々なデータを活用することで、PDCAを回すスピードは確実に速くなっているそうだ。