MMMを行う際におすすめのツール
続いて、小川氏はMMMを行うためのツールとして紹介したMeta社の「Robyn」に加え、Googleがオープンソースで提供しているRパッケージ「CasualImpact」を紹介した。これは時系列データ解析によって高度な差分の差分法を行うものだ。「Robyn」には、こうした因果推論の分析など外部のツールで得られた効果検証結果を入力できる機能があり、それによってMMMのモデルの精度を上げることができる。
Robyn:Meta社が提供する高機能なMMMツール。FacebookのAIライブラリ「Nevergrad」のアルゴリズムによる高度な計算力が特長。売上の最大化に向けて、KPIの過去実績を維持した状態で、費用を最小化する試算ができる。
Casual Impact:Googleがオープンソースで提供しているRパッケージ。時系列データ分析によって、「もし仮にそのマーケティング施策を行っていなかったら?」と仮定したときのKPIの予測値と実績値の差分を取ることで効果を定量化することができる。


これからMMMを取り入れる広告主、広告代理店へ
最後に、小川氏はMMMプロジェクトでよく質問されることを紹介した。まず1つ目は、「どのようなデータを用意すればいいのか?」という質問。現にここまでで、必要なデータをすべて揃えるのがまず大変だ……と感じている読者も多いのではないだろうか。実際に小川氏のもとには「クライアント企業の紙媒体しか担当していないが、MMMをやることは可能か?」といった相談が広告代理店からしばしば寄せられるという。
MMMでは、基本的な考え方として「目的変数を100%説明できる説明変数でモデルを作ること」が大前提に求められる。よって、紙媒体のみのデータでMMMを行うことは不可能であり、「確かな効果検証を行うために必要なデータを集めましょう」と提案するほかない。その必要なデータというのは、次の4つ(図表6)だ。
もう1つ、「MMMはブランド側で行ったほうがいいか、パートナー(広告代理店など)側で行ったほうがいいか?」という質問もよくされるという。これに対する小川氏の答えは、「ブランド側でやるべき。さらには、全体予算の意思決定に責任を持つCMOがMMMを行うのが理想」というもの。MMMによる分析結果を受けて最終的に意思決定を下すのはブランド側であり、ブランドがMMMを行えるのに越したことはない。
ただ、理想に対してそうはいかないのが現実であり、本質的な意思決定を共にできる信頼関係があれば、パートナー側でMMMを行うという選択肢もありだと小川氏は話す。このときパートナー企業が意識すべきことは、「広告を扱う自社の利害関係を除いて、予算配分の最適解をただ追求しているのだ」という姿勢を示し、ブランド側の理解と信頼を得ること。加えて、「見栄を張らない」ことも大切になってくる。
とりわけ、初めてMMMを行うときは、パートナー企業においてもブランド側においても、上手くいかなかったり、つまずいたりしてしまうことが多い。また、「大丈夫です、できます」などと簡単に言えるほどMMMは簡単なものではない。ときには「それはできません」と言えるくらいの関係性のもと行うことが重要なのだ。
最後に小川氏は、「私は統計検定1級の資格を持っているわけでもありませんし、そういった勉強は1回もしたことがありません。教科書的にデータ分析をやるのは、単純に面白くないしですし、心ももたないと思っています。私は、目的からデータ分析の世界に入りました。広告の検証が甘いこの業界を変えたいという思いだけでここまでやってきています。統計や数学などの知識は後付けで勉強できるので、まずは効果検証の現状を知ること、そして新たな手法としてぜひMMMにトライしてみてほしいと思います」と話し、ウェビナーを終えた。
小川氏は、同氏が経営する株式会社秤のYouTubeチャンネルでMMMに関する講義動画を公開している。本稿では解説が及ばない部分も多々あるため、公式YouTube動画もぜひ参考にしてみてほしい。