【特集】2022年の急上昇ブランド~本質的なブランディングの核に迫る~
─ インターブランド「ブランド価値評価」の仕組み――強いブランドが有する10の要素とは?
─ 先の見えない時代にこそ「ブランドの価値」が問われる。未来の競争力を高めるブランディングの在り方(本記事)
─ 事業成長を通じて社会課題を解決する。味の素グループが全社で取り組んできた「ASV経営」の現在地
─ 選ばれ続けるブランドの確立を目指す。ANAが徹底した顧客起点で取り組むCX戦略
─ 信念であるパーパスを体現し、ブランド・お客様・社員を繋げていく。SK-Ⅱに学ぶ、ブランド体験の作り方
─ 技術と歴史が築き上げてきた、富士フイルム「らしさ」のブランディング
ブランド論が試される数年を経て
――コロナ禍が終息の兆しを見せる一方で、経済や世界情勢への懸念が深まる2022年でした。ブランドを取り巻く環境は、どのように変化していると感じていますか?
ここ2~3年は、「ブランドとは何か?」が試された年だったと思っています。ブランディングについて考えるとき、これまでは競合との差別性ありきの、企業中心のブランディングが主流でした。ブランドのパーソナリティや存在意義をロゴやビジュアルで表現し、「他社よりうちのほうが良いでしょう?」と暗に、静的に主張することがブランディングであり、そこからブランド価値がつくられると考えられてきたのです。今でもそうした一世代前のブランディングに留まっている日本企業は多いと感じています。
しかし、コロナ禍は多くの生活者にとって「自分たちはブランドに何を求めているのか?」を問い直すきっかけになりました。企業人も一人の生活者として、ブランドの存在意義を見つめ直したのではないでしょうか。そうしてブランドの位置づけや意味合いが変わったことで、企業は先述したような差別性を訴求するブランドオーナーセントリックなブランディングから、カスタマーセントリックなブランディングへシフトせざるを得なくなりました。ある意味ダウンタイムだった2020年と2021年にこの変化を受け止め、「ブランドとは何か?」「ブランドは誰のものなのか?」を見直し、行動に移せた企業の成果が表れ始めた。2022年はそんな年だったと思います。Best Japan Brandsや顧客体験価値(以下、CX)ランキングにも、その結果は表れています。
――CXランキング2022では、トップ3に「丸亀製麺」「星野リゾート」「ANA」と、コロナ禍で苦境を強いられた業界のブランドが上位に入っていましたね。
ええ。CXランキングの調査では、「お客様の気持ちや求めることをよく理解している」ポジティブなブランドと、反対に「お客様の気持ちや求めることをあまり理解していない」ネガティブなブランドを純粋想起で答えていただいています。2022年はその調査の回答の中で、ブランドを選んだ理由として“企業の姿勢”を挙げる内容が多くあり、こうした傾向が見られたのはとても嬉しいことだと思っています。
今回のMarkeZineの特集で急上昇ブランドの一つに選定した「ANA」は、前年よりCXスコアを伸ばし、7位から3位へと躍進しました。調査のフリー回答からは、ANAが生活者にとって「応援したくなるブランド」になったことがうかがえます。コロナ禍で飛行機に乗る機会がない、もしくは頻度が減ったという人たちが大半を占める中で、「私のことを1番考えてくれるブランド」にANAが純粋想起されたことは、とても大きな示唆だと思います。CXには、「Relevance/私向けのものだと思える」「Ease/私にとって意味がある」「Openness/オープンで、正直である」「Empathy/私の立場で考えてくれる」「EmotionalRewards/いい気分にさせてくれる」の5つの情緒的な要素が重要です。今回のANAの結果は、飛行機に乗るという直接的なブランド体験が更新されなくとも、過去の体験や企業姿勢を見せていくことで体験価値が持続することを示しており、非常に印象的でした。