「視聴後に約9割の顧客が態度変容」ライブコマースの現況
改めてライブコマースとは、ライブ配信をしながらリアルタイムに視聴者のコメントに対応し、商品やサービスの魅力を伝えていく新しいコマースの形だ。「『コメントを通して双方向のコミュニケーションができること』が、特に重要なポイントです」と恩地氏は切り出し、国内においてライブコマースが広まった経緯と昨今期待されている役割に触れた。
ライブコマースは2017年頃に中国で話題となり日本でも見かけるようになったが、あまり浸透しなかった。しかし2020年、コロナ禍において顧客接点が失われたのをきっかけに、店頭接客の置き換えとして、積極的に取り組む企業が増えてきた。
2022年4~5月に、Twitterの『ライブショッピング機能』やLINEの『LIVEBUY(ライブバイ)」が立て続けにローンチされるなど、SNSプラットフォーマーが参入。これにより、単純な売上だけをKPIに置くのではなく、SNSにおけるエンゲージメント向上を含め、コミュニティ創造やソーシャルコマースとして全体を設計していく考え方が広まったという。
では、エンゲージメントを高める役割においてライブコマースの購買体験はどのような可能性を持つのだろうか。恩地氏はライブコマースの「機能拡張性」に着目している。
「たとえばECサイトは顧客に商品のスペックを伝えることにおいて非常に便利ですが、ライブコマースは、ECサイトで伝えきるのが難しいテクスチャーや香り、配信者のおすすめの使い方など、情緒的な部分でその機能を拡張できます」(恩地氏)
機能拡張性は情緒的な情報の伝達にとどまらない。テレビ通販は一方通行だが、ライブコマースではコメントを通してインタラクティブ性が拡張できる。また、ライブコマースでは1対複数で、多くの顧客に対峙するアプローチも可能だ。実際の店舗では、商品の魅力やおすすめポイントなど、時間をかけて丁寧に説明する接客が難しい場合もある。しかし1対複数で発信することで、店頭では不可能なリッチな接客体験を提供でき、顧客にとってより納得感のある心地良い購買体験を生むことが可能だ。
「弊社の調査では『ライブコマースの視聴を通して、ブランドに対する好意形成、商品理解、購入意向など、好意的な態度変容を起こす顧客が約9割』という結果が出ています」(恩地氏)
ライブコマースの演出「セレンディピティ型」と「セレクト型」
次に恩地氏は、ライブコマースの演出における傾向を解説した。大きく『セレンディピティ型』と『セレクト型』の2つに分けて説明する。
セレンディピティ型は、認知・興味関心のフェーズにある視聴者にとって、ライブコマースの視聴が商品との「幸運な偶然の出会い」となるように、徐々に関心を持ってもらい、購入意向を高めていくための演出だ。実店舗内を回遊して検討する通常のショッピング体験に近く、配信中に視聴者が「この商品が気になる」とコメントすると、配信者が商品を見せながら紹介していく。
一方セレクト型とは、丁寧な接客で新商品やピックアップしたいおすすめ商品への理解を促すことができる演出方法のこと。「ライブコマース全体でみると、セレクト型配信の方が一般的。詳しく商品情報を知ることで、関心が高まっていくことがある」と恩地氏はいう。『本当に自分に合っているのか』といった最終確認をしたい顧客が、商品理解を深める接客体験を求めて視聴するのがセレクト型だ。
なお、これらの型を問わず、視聴後に商品を改めて確かめてから購入に至る顧客の動線がライブコマース全般に見られる。視聴時に「これ」と思った商品を店頭接客やカウンセリングで確かめたり、試着したりしてから納得して買うのだという。
「全員が視聴時に購入まで行かなくても、興味関心から比較検討のフェーズへ、比較検討から購入のフェーズへと一歩先に進めることが、ライブコマースの役割です」(恩地氏)