日本人にメタバースはどれだけ広がっているのか?
平沼英翔氏は、博報堂DYホールディングス の研究開発部門マーケティング・テクノロジー・センター(MTC)で、XRやCPS(サイバーフィジカルシステム)、Spatial Web(実空間のインターネット化)の研究に軸足を置き、次世代インターネット空間の研究を行っている。また、HAKUHODO-XRというプロジェクトにも所属し、XR広告コミュニケーション、バーチャル空間やXRコンテンツの企画・運営、XRコンサルティングの4領域について、マーケティングコミュニケーションや体験設計まで携わる。
同氏はメタバース市場における新たなコミュニケーション戦術を考える上で”何が必要となるか”を生活者視点で調査・分析した「メタバース生活者意識調査」の結果を交え、日本におけるメタバース利用者像と、コミュニケーションのヒントを紹介した。
「この調査では、メタバースを知ってはいるけれど興味はない『メタバース認知層』、メタバースに興味はあるけれど利用していない『メタバース興味層』、メタバースを定期的に利用している『メタバース利用層』まで幅広い対象に、メタバース以外のコンテンツや接触メディアも含めて、複数の切り口で分析しました」(平沼氏)
近年話題となっているメタバースだが、実際のところ、日本の生活者にどの程度普及しているのだろうか。調査では、メタバース関連のサービスを認知している人は全体の36.2%(推計約2,980万人)という結果となった。日本人の約3分の1が既に具体的なメタバースのサービスを知っている状態だ。さらにその中でも、実際にメタバースのサービスを利用したことがある人は8.3%(推計約680万人)となった。ここから、生活者にある程度メタバースが普及していることが確認できる。
生活者が抱くメタバースへの期待と不安
次にメタバースにどういったイメージを持っているのか見たところ、認知層から利用層まで「仮想空間」というイメージを持たれていることがわかった。しかし、ARなどを含む広義の捉え方はあまりされていないようだ。
さらにメタバースにどういう可能性を感じるか聴取したところ、「性別・年齢・国籍関係なく、交流を楽しむことができる」(71.9%)、「新しい市場が生まれる」(70.2%)といった項目が高い結果となった。生活者は匿名性を持つメタバースを活用することで、ダイバーシティやインクルーシブな交流に期待したり、ビジネス面でも市場としての価値に期待したりと、多くの可能性を感じているようだ。
反対に、「メタバースでも嫌がらせ・いじめ等の社会課題が現実と同様に起こると思う」(72.2%)「メタバースは個人情報の取り扱いに問題がありそう」(65.3%)といった不安も感じている。多くの生活者がメタバースに対して様々な可能性を感じながらも、新たな社会課題が生まれる不安も持っている。
「まだメタバースが完全に普及しておらず、あまり理解されていない状態だからこそ、業界全体としてメタバースに対するポジティブなイメージをしっかり醸成していくことが、今後市場を拡大する上で重要だと考えています」(平沼氏)