システム構築のポイントは「いかに小さく生み出すか」
星氏は社内承認を得るにあたり「自身の思いで一点突破した」と語る。土代氏とは対照的なアプローチだ。

「香りによるやさしい課題解決を事業化したいと個人的に考えていたところ、ロート製薬が薬に頼らない製薬会社を目指して食の新規事業を始めたのです。当時の私は別会社に所属していたのですが『この会社なら可能性がありそうだ』と考え、BÉLAIR LABの接点を探って事業化に漕ぎつけました」(星氏)
社内承認に次ぐ第二の関門がロジ周りのシステム構築だろう。大手メーカーは設備が充実しているため、一から揃える必要はないように思えるが、実際はそうもいかないらしい。
サッポロビールは140年以上BtoBtoCで「大ロット小品種」の事業を行ってきた。しかしながら、D2Cのような「小ロット多品種」の実績はない。そこで、ブランド立ち上げ初期はAmazon+自社倉庫を、事業ローンチ期はASPカート+首都圏の外部倉庫を活用し、事業フェーズに合わせて販売・物流体制をピボットしていった。大手メーカーとはいえ、事業の未来予測が不確実な状態で多額の投資を行うことは難しいからだ。
「何よりもHOPPIN’ GARAGEという新しいブランドの世界観を届けるにあたって、既存のアセットを横展開する方法が得策とは言えませんでした。生活に寄り添うきめ細かいコミュニケーションや多品種をアソート出荷するケイパビリティが、社内にほとんどなかったためです」(土代氏)
BÉLAIR LABにとっても、販売・物流体制の構築はチャレンジングだったという。ロート製薬には日用品や医薬品、化粧品などを含む「大ロット多品種」の実績はあったものの、サッポロビールと同じく小ロット多品種の実績はなかった。商売のルールや販売場所が従来のビジネスとは異なり、大きなシステムギャップもある中で新しいものを生み出すためには「いかに小さく生み出しグロースさせていくか」が大切だと星氏は述べる。
「BÉLAIR LABもHOPPIN’ GARAGEと同じく、最初はAmazonでテストマーケティングを行いました。現在はShopify+外部倉庫を活用しています。今後も事業フェーズに応じてシステム周りを段階的にスケールアップさせる想定です」(星氏)
仮説検証を高速に実行する運営体制とは?
続いてのトピックは、サイトの構築と運営体制だ。HOPPIN’ GARAGEでは硬直的な販売方法からの脱却を図るべく、アジャイル型のシステム開発に取り組んでいるという。EC PaaSをベースにパブリッククラウド上で独自の機能を構築。さらにCRMなどの外部ツールを組み合わせ、不要なツールはクイックに外せる3階建て構造とした。

ブランドの認知を拡大するためにはモールへの出店も避けられない。とはいえ立ちはだかるのは受注・在庫管理の壁だ。「複数モールの商品管理を手動対応するのは難しいため、一元管理できるシステムが必要」と土代氏。今後は外部のCRM・CDPツールなども導入しながら、自社ECサイトにも順次反映させていくという。
BÉLAIR LABの場合はどうか。変化が激しい新規事業のフェーズに対応するため、仮説検証サイクルを高速に回せる運用体制を整えているとのことだ。

「大企業においてはサイトの制作・運用がルール化されていることも多く、『書きたいことが書けない』『動画を載せたいが載せられない』などの制約を受ける場合があります。サイトの立ち上げ初期は、自分たちが思い描いていることとユーザーが受け取る印象にギャップが生じるケースが多発しがちです。とにかく『サイト=ブランドを伝える場』という前提のもと、自分たちでUIが変えられる体制をつくっています」(星氏)
なお、CSやCRMには外部ツールを活用し、Shopifyとデータ連携しているそうだ。「システムに時間やお金をかけ過ぎない」というコンセプトでBÉLAIR LABのサイトは運営されている。