番組の注目度・期待値UPが、CM枠の価値向上に繋がる
MZ:M-1は合間に放送されるテレビCMもユニークなものが多いです。CM枠も含めた番組の価値向上の取り組みについてもお聞かせいただけますか?
有元:これは社内関係者で掲げている目標ですが、「M-1をお笑い界のスーパーボウルにしていきたい」と考えています。アメリカのスーパーボウルの決勝中継は、視聴者数の多さはさることながら、CM枠も注目されています。M-1を国民行事として盛り上げることでCM枠への注目や期待値も高めることができるだろうと信じて、朝日放送テレビさんと共に様々な取り組みを進めてきました。
重要なのは、協賛いただく企業のみなさんにも、M-1というイベントを楽しんでいただくこと。たった1回の放送のために制作費を確保して、特別なCMを作っていただくためには、面白いと思っていただくことが一番大切です。そうしたいいスパイラルを生み出すことを目指したスポンサードのあり方を考えています。

また、近年はテレビCMの枠組みから拡大し、デジタル特化の新たなスポンサード枠も設けています。M-1の公式YouTubeチャンネルで準決勝までのネタを全組分アップしているので、そこを広告枠として活用したり。M1後のドキュメンタリー番組「アナザーストーリー」に収まりきらなかった動画素材をYouTubeで公開し、そこにスポンサード枠を設けたり。デジタルも含めて、新しいコンテンツやスポンサードの形を朝日放送テレビさんと一緒に開発しています。
テレビのコンテンツ価値を上げていくことで、こうした周辺のビジネスチャンスにも繋がるのは、とてもやりがいを感じます。
M-1に学ぶ「視聴者の巻き込み方」と「テレビの力」
MZ:消費者を巻き込み、1つのイベントを世の中ごとにしていく時、何が肝になるでしょうか?
有元:ここ数年で、“推し”の文化が大きく拡大していますよね。M-1のプロモーションにおいても「まずはファンを喜ばせる。それにより、プロモーションの拡散力がさらに強まる」という傾向が年々強まっていると感じており、M-1を推して下さっているファンのみなさんの反応は、大事なインサイトとして細かく拾っています。
これはM-1だけに限らず、他のテレビ番組やコンテンツにも共通していると思います。たとえば、水曜日のダウンタウンは視聴者の反応の取り込み方がとても上手ですし、佐久間宣行さんの番組もファンの巻き込み方がすごく上手だなと注目しています。視聴者の反応を予想しながら、それ面白がって企画しているものが支持されていると感じます。
MZ:M-1に関わる中で、テレビの力をどのように感じられていますか?
有元:たしかに、メディアの消費環境は大きく変わり、テレビの視聴形態も変わりました。ただ、M-1で朝日放送テレビさんと一緒に仕事をしていると、コンテンツにかける熱量や馬力に圧倒されますし、その熱量に周りを巻き込む力があるように感じています。コンテンツの制作力という観点で、テレビはやはり非常に優れていると思います。
また、「同時に見させることができる」というテレビだからこその強さも感じます。年末にゴールデン・全国区でM-1の決勝が放送される。そこで芸人さんたちが4分間漫才をやって、国民を笑わせようとする。もちろん国民全員がM-1を見ているわけではありませんが、見ようと思えば誰もが見れる、そんな環境で漫才をやっている凄みがエネルギーになり、また威力・権威にもなると思うのです。だから、どんな無名の芸人さんでも一晩で人生が変わることになるのではないでしょうか。
サブスクの動画配信プラットフォームとの一番の違いは、良くも悪くも、視聴時間を選べないところ。視聴時間を選べないというのには、ネガティブな面もありますが、視聴者へ同時に同じ感動を与えられるという点で、テレビの力は本当にすごいと感じています。
クリエイティブの力で、大好きなM-1を応援していきたい
MZ:さらなるM-1の盛り上げに向けて、有元さんの目標を教えて下さい。
有元:私は幼い頃から生粋のテレビっ子で、テレビの仕事が楽しそうだから、テレビが好きだからという理由でこの職に就きました。とりわけ、お笑いが大好きで。お笑いを見て育ちましたし、第1回のM-1開催時にはハガキを100枚くらい書いて客席審査員に応募したくらいです(笑)。

そんなミーハーな心が先立っていたわけですが、クリエイティブディレクターとしてM-1に携わるようになり、ビジネスとしてのテレビにクリエイティブがこんなにも役立てるのかという気づきがありました。テレビ局側に属していない人間だからこそ、フラットにYouTubeなどのデジタルも含めて、テレビの特長や力を捉えられているのかもしれません。「M-1が国民的行事になってきたね」と言われる機会が増え、本当に微力ですが、自分たちが少しでもM-1の盛り上げに役立てていると思うと嬉しい限りです。
M-1を作っているのは、私やファンのみなさんも含めて、本当にM-1が好きな人たちです。そのみんなの熱量が世の中にちゃんと伝わっているというのは、とても良い循環だと思います。「大好きなM-1を応援したい」というファンのみなさんの熱い想いを、ビジネスとして支えていけるようなクリエイティブを作っていければと思っています。