各部門がそれぞれのKPIだけを意識しても失敗する
「STORES 予約」では、有料プラン契約をKGIとして各部署の役割を明確に分けている。リード数を獲得する施策を講じるのはマーケティング部であり、受注確度の高いリードにアプローチして、顧客の要望をヒアリングし、商談設定をするのがインサイドセールス部だ。その後に有料プラン契約についてより詳細な提案をダイレクトセールス部が担う。商談が成立し、サービスを契約した後は、カスタマーサクセス部が運用開始・利用継続に向けてフォローする。

多くのBtoB事業者でもこうした役割分担が行われているだろう。ただし、この時に各フェーズでそれぞれの担当部署が“自分たちの数字”ばかりを意識してしまうと、連携ミスが発生すると山﨑氏は指摘する。
「マーケティングではリードCPA(Cost Per Acquisition)を意識するあまり、トスアップ率の低いリードが増えてしまいます。またインサイドセールスではトスアップ数を意識するあまり、ダイレクトセールスにつなぐ商談の質が下がってしまいます。この商談の質が下がった結果、ダイレクトセールスの有料契約率は低下してしまうのです」(山﨑氏)
「フックになるもの」を組織横断で共有・共通ビジュアル化
こうした連携ミスを解消するには、やはり組織の補完関係を見直す必要があるという。STORES では、有料化につながりやすい顧客属性・ニーズのシェアをセールスが積極的に行い、そこからマーケティング部が有料化の有無を分けた理由を分析してチーム横断で共有することにした。顧客との会話内容・セールス活動記録の分析から「リード獲得時・獲得後にどのようなアプローチをすれば有効なのか」をまとめて共有する。この補完関係をより強固にするよう働きかけたところ、顧客の獲得率は向上したという。

「(有料顧客を獲得するには)セールスが使うワーディングを参考にすることが最も効果的であることがわかりました。日々行われているセールス活動のエッセンスを基に、改善のPDCAサイクルを回すことが重要です。セールスが顧客と会話をする時にわかりやすく説明できるような入口を、過去の結果を基に用意すること。その旗振りはマーケティング部の役割です」(山﨑氏)
マーケティング部では、セールスからのフィードバックを基に有料プラン検討のフックとなった要素を整理し、要素とそれぞれのトークの流れをビジュアル化。チーム横断で共通認識できるようにすることで、セールス時のコミュニケーションコストは大きく下がった。

顧客への説明をセールスが使うワーディングに統一するだけでなく、サイトデザイン、ビジュアル面でもその知見を活かしているという。具体的には、顧客が業務をイメージできるようなUIの画像を必ず入れるといった変更をし、その後セールスの意見を交えて定期的に見直しているとのことだ。
最後に山﨑氏は、「セールスとマーケティングが共同でビジネスをデザインした結果、有料顧客の増加を達成できたのは、“同じ1人の顧客課題を解決する”と意識付けた結果だと考えます」と述べ、講演を締めくくった。