社内浸透の鍵となる三つのポイント
データ活用の最後の難関が社内への普及活動だ。鄭氏、内野氏ともに「このステップが一番泥臭いところ。基盤があれば必ず結果が出るわけではない」と指摘する。

さらにアミューズの場合、A!-IDという新システムと「データドリブン」というカルチャーそのものを並行して社内浸透させる必要があった。
「『マーケティングやデータ活用』という発想があまりない状態で、A!-IDを理解し、各部署に取り入れてもらうためには……」鄭氏が選んだ方法は、地道にコミュニケーションを取っていく“草の根運動”だった。
ファンクラブやECなど各サービスの担当者一人ひとりに「今後はデータを積極的に活用していく必要がある。この文化を社内に根付かせるために一緒に腹をくくろう」と頼み込んだのだ。また、以下の三点も意識したという。
1.会社ゴト化する
2.会議は少人数で
3.提案で終わらない
一つ目の「会社ゴト化する」では、A!-ID自体を全社マターにしたほうが社内浸透がよりスムーズになると考えた。そこで、鄭氏は企画書を作成し、役員陣にプレゼン。それを経て、今ではアミューズが提供するほとんどのサービスがA!-IDと紐づいているという。
二つ目の「会議は少人数で」は、サービスサイトの運営を行っている人たちとの会議では、あえて“少人数”になるよう意識した。「大人数の会議ではどうしても自分ゴト化しにくく、惰性で参加してしまうことがある。このプロジェクトを自分ゴトとして捉えてもらえるよう、チームの皆が小さなユニットでの会議を重ねていった」と鄭氏。
三つ目の「提案で終わらない」とは、鄭氏らプロジェクト推進者がサイト運営者と、データ活用の検討から施策の実行、効果検証まで伴走することを意味する。プロジェクト推進者が単に「データを活用してみてはどうか」と提案するだけでは「絵に描いた餅」になると考えたからだ。
「泥臭く汗をかくこと」がデータ活用の近道
また、社内のデータ活用状況を可視化するためのダッシュボードもTableauで構築。各部署で送付されたメルマガの配信数や開封率などが一目で確認できるものも、その一例だ。「今ではこういったダッシュボードを見ながら会議で分析や改善案について話し合うことができている。データが議論のベースになってきていると実感する」と鄭氏は手応えを示す。

内野氏によると、一般的にデータ活用というとスマートで効率的なイメージが先行しがちだが実態は異なるといい、むしろ、データ活用ができる環境を整備するまでは地道な作業の連続なのだという。
「その点、鄭氏のようにデータ分析ができて、なおかつ社内推進も担えるデータアナリスト兼プロジェクトマネージャーが旗振り役を担えば、データ活用はより現実的なものになるでしょう」(内野氏)
そして、内野氏はセッションの総括としてアミューズのA!-IDの基盤構築からデータ活用までをこうまとめる。
「鄭さんをはじめとするA!-IDプロジェクトに携わった皆さんは、まず課題を『会社ゴト』化して、社内を巻き込みながら『自分ゴト』化。そして自ら手を動かし『試行錯誤』をしながら『泥臭く』プロジェクトを始めていきました。皆さんもぜひこれに倣ってみてください。汗をかいた分だけ間違いなく成功率は高まるはずです」(内野氏)