マイナンバーカードとの連携で広がる可能性
有園:どうすれば、そのような状態に近づくとお考えですか?
島田:ユーザー獲得のためのキャッシュバックやポイント付与はある程度は有効ですが、お金で集めた人はお金がなくなると消えるので、賛成派ではないです。紙レシートをなくすことでCO2の削減になることをもっと訴求し、たとえば我々がCO2削減分に応じて植林をするなどわかりやすい活動を通して、ユーザーの方々にも「人と、地球の、明日のために。」をモチベーションにしていただきたいと思っています。今、利用に応じて削減できたCO2量を算出できるよう準備しているので、たとえばその数値に応じた換金なら長期利用を促せると考えています。
さらに今、デジタル庁と話をして、マイナンバーカードとの連携を検討しています。あくまで本人認証に使うだけで、我々が個人情報を得ることは一切ありませんが、地域の購買行動の6~7割はわかるようになるでしょう。それでユーザーにとっても便利な世の中になれば、その割合は上がっていくはずです。
有園:それは広がりがありそうです。
島田:マイナンバーカードに関してはいろいろな議論がありますが、「スマートレシート」が寄与すると思う点は、ユーザーの購買データをリアルタイムで把握できることです。たとえばマイナポイントにしても、様々な給付金にしても、それらが政策の意図したことに正しく使われているのかを確認することが大事です。本当に買い回りが起こって街の活性化になっているか、子育て支援のお金が違う用途に使われていないか、などですね。
実際に今、我々は複数の自治体と一緒に、自治体が発行する地域通貨を流通させるべく実行計画を練っています。本当に市民や国民のためになっているのか、データで検証していくことが重要だと考えています。
カーボンニュートラル実現に向けて
有園:マイナンバーカードと「スマートレシート」が連携したら、革命的だと思います。東芝以外のPOSともつながれば、ほぼ日本中のリアル店舗の購買データを集約でき、相当に細かい分析や個々人に合わせた提案が可能になりそうです。また、NHKや民放とつながれば、ターゲティングしたテレビCMが購買に結びついたかの検証もできますね。
島田:はい、メディア企業やリサーチ会社と組み、既に取り組み始めています。テレビCMに限らず、新聞やチラシなど他のメディア接触の効果も検証できます。ただし、ターゲティング広告に関していえば、もう推定での配信はアウトだと思っています。お客様が必要なもの・サービスをきちんと把握している、高級旅館のおもてなしのようなユーザー体験を提供できるのが理想ですね。
昔は不可能だった個人の購買行動のトラッキングも、テクノロジーの進化によって可能になりました。マクロ経済も随分勉強しましたが、最終的には人間の行動を見ようとしている。それが「スマートレシート」を介せば個々の粒度で可能になります。これを私は“ナノ経済”と呼んでいます。
有園:なるほど、まさにナノ経済と言えますね。最後に、今後の注力点をうかがえますか?
島田:やはり、カーボンニュートラルの実現に向けて力を入れていきたいです。そのために、一人ひとりの活動でCO2がどのくらい減ったかを可視化していきたいですし、企業のCO2削減活動の成果も可視化して、その企業のプロダクトが選ばれるようにしたい。「このワインは安いけど、空輸ですごくCO2を排出しているんだ」といったことがわからなければ、行動変容が起きません。
CO2排出量はスタートアップのゼロボード社と組み、ある程度の算出は可能になりました。各社と協力して、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて進んでいきたいと思います。
