地域活性化に役立つブランディング手法を解説
今回紹介する書籍は『場所のブランド論―プレイス・ブランディングのプロセスと実践手法』。著者は、横浜商科大学の商学部で教授を務める若林宏保氏、関西大学の総合情報学部で教授を務める徳山美津恵氏、新潟大学で人文社会科学系の准教授を務める長尾雅信氏、そして「電通abic project」に携わる宮崎暢氏と佐藤真木氏だ。同プロジェクトは、場所視点からの地域課題解決に向けて産学共同で連携しています。
本書では、数多くの地域活性化に携わってきた5名がその知見を基に、場所視点のブランディング(プレイス・ブランディング)のプロセスを解説しています。
現在、日本の多くの場所で求められている地域活性化。本書では、本来身近な問題であるはずが、地域活性化や街づくりになると「自分には関係ないもの」と思われていることが多いと指摘し、マーケティングに携わる人がその力を発揮できる機会があることを示唆しています。
ただし実際には、同分野に取り組んだ何らかの経験を持たない方が関わるのは難しいと思われるかもしれません。本書では、他の分野の方でも各々の視点に立てるように、各章の導入で電鉄会社に勤務する開発プランナーや大手食品会社に勤める人物などの様々なペルソナとその人物の問題意識を設定。さらに下北沢や横浜の街づくりといった15の成功事例を用いることで、再現性のある理論をわかりやすく説明しています。
プレイス・ブランディングという言葉をここで始めて見る方にとっては、一般的なブランディングの概念、既存のマーケティング手法との違いについて疑問符が浮かびそうです。著者は場所視点のブランディングは、既存のマーケティング手法とどのように切り分け、定義しているのでしょうか?
場所を理解するために重要な「センス・オブ・プレイス」
本書ではプレイス・ブランディングの重要な概念として「センス・オブ・プレイス(以下、SOP)」を挙げ、場所についての感覚や情動などの個人が抱くイメージと定義しています。
(SOPは)「人間一人ひとりが持つ場所の感覚」を示しており、「場所」を理解する上で最も重要な概念の一つである。senseという単語は、「五感による感覚「感覚能力」「意識」「分別判断」「意義」「意味」など多義的な意味を持ち直訳するのが難しい。論者あるいは文脈によって解釈が変わったりする場合もある。(P.3)
著者はこのSOPを探索して理解することで、地域の人々の感覚を理解したブランディングができると語っているのです。本書ではSOPを探索するための8つの手法を挙げ、その解説に過去の成功事例を用いて理解しやすくしています。
街並みを残すための型を生活者と作る 真鶴町の「美の基準」とは?
たとえば、SOPの探索手法の一つ「パターン・ランゲージ」を活用した事例として神奈川県足柄下郡真鶴町の取り組みを挙げています。
本書によると同町には約30年受け継がれた「まちづくり条例」があり、街並みを残すための“美の基準”として役立てられています。
「これが町の条例なのかと思うくらい詩的なキーワードが設定され、建築基準のような管理するための数値は全く記されていない。(中略)8の基準に沿って、69個のキーワードが設定され、それぞれに写真やイラストが添えられている」(P.41)
パターン・ランゲージとは、共通の「型」をみつけ「言語」として体系化していく手法です。
同町では一般的な建築基準のように数字を使って街の様々な要素を「型にはめる」ようなことはしていません。この条例によって住民と対話を行いながら美の基準の最適解を都度探す運用こそ、まさにパターン・ランゲージだと著者は述べているのです。実際に同町では、一定の規模を超えるプロジェクトの計132件にこの条例の基準が適用され、住民参加型の街づくりを促進できているそうです。
本書ではこのように、事例から地域活性化における重要な考え方を伝えることで、他分野に携わる方でも日本の重要課題に携わる機会を創出しており、製造業や小売業などで一般のマーケティングに携わる方にとって地域の生活者を巻き込んだ施策を行うためのヒントが得られるようになっています。
地域と何らかのつながりを持つ商材のマーケティングに携わる方、地域のユーザーとブランドを共創し、顧客のコミュニティを育てていきたいと考えている方は一度目を通してみたらいかがでしょうか。
本記事は電通からの献本に基づいて記事作成しております