生活者がメディアを利用するシーンを考える
──こうしたメディア利用の傾向を踏まえると、メディアプランニングにあたり、どのような視点や考え方を持つべきでしょうか?
最初にお話ししたとおり、ひと研究所は生活者がどう考えて行動しているか、生活者の視点でメディアを見てきました。生活者は「この商品を買うときにはこのメディア」というふうに意識的に選んでいるわけではないですよね。ましてや、今は一つのメディアを使うにもデバイスをまたぐのが当たり前。生活者にとってリアルな感覚としては、自分が「今どこで何をしているか」によって、メディアを使えるか使えないか、何のメディアを使うかが決まるのではないでしょうか。
たとえば「今は仕事中なので動画は見られない」「帰りの電車の中なので音楽を聴こう」といった形です。こういうふうにメディアを捉えたほうが、生活者の主観に近いのではないかと思います。そういった視点をアイデアの一つとして取り入れることで、新しいメディアプランの考え方が思い浮かぶかもしれません。
──マップ(図表1)の左上のメディアであれば、生活者がリビングでくつろぐときに適切な広告を出すなど、タイミングに合ったメッセージを考える必要がありそうですね。
そうですね。従来も、たとえばラジオ放送局なら、リスナーは移動中のことが多いため、そのシーンに適したCMを出そうと考えてきたはずです。その視点が、SNSや動画など他のメディアでの広告出稿でも必要なのです。生活者からすれば、番組やコンテンツはもちろん、広告も生活シーンにマッチしてほしい。寝る前にSNSを見ているときに「仕事を効率化しましょう」みたいな広告が流れてきても、刺さらないですよね。生活シーンにうまくマッチングさせることで、広告効果が高まる可能性がある。そういった視点を改めてこの調査から確認できると思います。
食事中にそぐうコンテンツの出現が鍵
──この調査はエリアごとや商品ごとにマッピングして、メディアプランニングに活かすことも可能なのでしょうか?
可能です。しかし、日本のメディア環境と日本人の生活リズムは、地域や利用する商品でセグメントしてもそれほど変わりません。ある商品を買うからといって、メディアの全体の相対バランスがまったく変わってしまうことはありません。とはいえ、完全一致はしないので、細かい違いを読み込んで、そこに解釈を与えることもできます。
──日本人の生活リズムが変わらない限り、大きくマッピングが動くことはないとのことですが、長期的な未来予想をするとどのように変化しうると見ていらっしゃいますか?
マップ(図表1)の縦軸が「テレビ受像機がある/ない」であることからもわかるように、テレビモニターに何が映るかが強く影響を与えます。昨今はコネクテッドTVによって動画もテレビで見られるわけですが、現状マップの右上「ながら時間」はテレビ視聴が優位で、特に家族視聴ではオンデマンドのメディアは弾かれがちです。
テレビモニターで動画を視聴する習慣がどれだけ浸透するか、もっと言えば、先ほど申し上げたように食事中に動画コンテンツを見るようになるかが鍵です。食事中にそぐうコンテンツとしてテレビ放送に代わるものが出てくるのか、もしくは代わらないのか注目ですね。
もしかしたら、時間帯に合わせて適切なコンテンツを流すメディアが大きな影響力を持つかもしれません。デバイスの技術的な進化よりも、コンテンツの順応や習慣の浸透がポイントになると思っています。
──最後に、今後メディアポジショニング調査はどのような展開を予定しているのかお聞かせください。
元々メディアポジショニング調査は外部に発信しておらず、我々がメディアのトピックを聞かれた際の話の種になれば、と考えて実施していた研究調査でした。メディアプランニングに携わる方に興味を持っていただくことが多かったので、定期的に新しい視点を提供したいと考え、定点観測的な調査として公開するに至っています。
今後も年1回のペースで継続する予定です。今回は、音声メディアをはじめ、数を増やして「60メディア」を対象としたのがポイントでしたが、昨今はメディアの統廃合も進んでいます。その時々のトピックスを踏まえつつ定点把握し、基礎データとして発信していきたいと思っています。「今年も出たな」と言っていただける風物詩にしたいですね。
