検索時に想起してもらえるようなブランディングがより重要に
ボドナー氏が挙げる二つ目の戦略は、「ブランドマーケティング」だ。
AIの登場により、顧客の検索環境は大きく変化した。従来の検索では、調べたい単語や事柄を入力し、出てきた多数のリンクをクリックすることで、求める回答を探すやり方だった。それに対し、ChatGPTなどのAI検索では、質問の精度によっては最適化された回答が回遊することなくすぐに返ってくる。たとえば「当社は従業員数百人の日本のメーカーです。最大の課題は自動車業界で新規販売件数を伸ばすこと。当社に最適なCRMを教えてください」というように、質問に補足情報が付け加えることでその人が求める“最適解”を得ることが可能だ。
ここで特に重要なのは、検索者の質問によって回答の内容が左右されるということ。
「AIモデルでは、ユーザーの質問に合わせて答えがカスタマイズされます。ただし、現時点では、AIモデルが回答として表示するのはそれぞれの市場や分野で名の通った有力ブランドばかりです。そのため新時代の検索では、ブランドの影響力と認知度をいかに高めるか、そして検索者にどれだけ想起してもらえるか、が重要になってきます」(ボドナー氏)
まずは特定のサービスを知ってもらう。その上でサービスにどんな利点や欠点があるのか知るため、サービス名を検索の中に入れてもらう。このように想起されるブランドづくりが、これからのマーケターに必要になってくるだろう、と分析した。
成功するイベントは見込み客の購買意欲を醸成するゴール設定がカギ
次に、伊佐氏はオンライン広告のトレンドと注目するべき戦略について尋ねると、ボドナー氏は現在見られる傾向を挙げた。
まずはAIの活用だ。ターゲティングや広告作成に利用され始め、GoogleとMetaが最近公開したAI搭載の広告作成ツールでは、様々な広告の画像、文章をAIで作成可能となっている例を挙げ、こうしたAI活用が急速に広まることを予想している。
また、配信先についての変化にも言及。YouTubeやTikTok、Instagramリールなどの動画が今後ますます重要なチャネルになるという。中でもYouTubeはすべての市場で関心が高まっており、「今後広告チャネルの主流になる」と評した。
そして、もう一つ変化すると考えているのが、インフルエンサーマーケティングだ。Googleなどを介して動画に広告を表示するのではなく、YouTubeのクリエイターと個別に交渉しコンテンツに融合できるよう個別のパートナーシップを結ぶ動きが高まっているという。ボドナー氏はこうした手段がBtoCとBtoBの両方で活用されることになると予想する。
ここで伊佐氏は日本のマーケティング担当者が広告費の高騰と顧客獲得単価の上昇に課題を感じていることに言及。同社の調査では回答者のほぼ約6割に当たる57%が「広告以外でリードを創出する手段を見つけることに課題がある」と答えたという。
これを受け、ボドナー氏はマーケティングミックスにおける広告の重要性に触れつつも、その水準を低く抑えることを提案した。
「BtoBビジネスの場合、リードの60~80%を広告経由で創出している企業が多いですが、15~35%に抑えることをお勧めします」(ボドナー氏)
その背景にはどのような考えがあるのか。統計では広告費が高騰しており、人気のあるチャネルではそれが顕著であるとボドナー氏は述べる。大勢の人が使い慣れているGoogleやMetaなどの大手のチャネルも同様だという。
一方、企業に選ばれなくなっている屋外広告の広告単価は米国をはじめ、多くの国で大幅に低下。先述のインフルエンサーマーケティングについても、クリエイターと直接交渉すれば広告単価を抑えることが可能で、調査によるとプログラマティック広告と比較して広告単価は3分の1~5分の1で済むと話す。現在進んでいる異業種のオンライン広告参入によって、価格競争が激しくなることも予想。「市場は細分化しており、値上げ一辺倒ではない」と強調する。
マーケティングにおいて重要な「早期に動くこと」に加え、とにかく新たな手段を始めてテストを続け、戦略を進化させる「機動力」が求められると助言した。
では、イベントについては今後どのような形式が主流になるだろうか。ボドナー氏は次のように語る。
「パンデミックを経て誰もが他者とのつながりを求めています。対面イベントの開催は人とつながれる場として重要ですが、以前と比較すると多くのコストがかかるようになってしまいました。開催の目的の設定には慎重になる必要があります」(ボドナー氏)
加えてボドナー氏は、多くの国のマーケティング担当者に共通して見られるイベント開催における失敗として、ターゲットをまだ購入の検討を始めたばかりの潜在顧客にしている点を挙げる。これはコストがかかる上に非効率だという。
では、イベントの目的をどのように決め、誰を対象にすれば良いのだろうか。
ボドナー氏によれば、限られた予算内で戦略的にイベントを行うために最適なターゲットは、購買意欲を醸成して顧客への転換が見込めるような購入サイクルの終盤にいる見込み客だ。
イベントでは自社ができる問題解決を説明して製品の価値を伝え、信頼関係を築く。さらに製品を使用したことがある他のユーザーと交流できる機会を設ける。そうすることで、顧客の購買意欲を醸成し、購買への転換を促すことが期待できるという。また、規模は50~75人以下、多くても100人程度にして一度の開催コストを低くし、開催頻度を上げるほうが良いとも説明した。
この例にも当てはまるように、イベント実施においては、目的を具体的に絞ることが成功の鍵となるようだ。