都市ホテルには、出ざるを得なかった
田中:本日は、2023年7月31日に開業予定の「OMO3浅草 by 星野リゾート(以下、OMO3浅草)」にお邪魔しています。星野リゾートは、OMOのシリーズがそうであるように、若者向けの業態に出たり、都市ホテルの展開にも注目が集まっています。これらの意図について伺えますか?
星野代表(以下、星野):今、ホテル業界の戦いは、主戦場がオンライン予約になっています。織田信長の時代に戦いは刀から鉄砲に移りましたが、鉄砲を持つにはお金が必要ですよね。まさにそういう感覚です。システム投資にいくら予算をかけられるか、いかにオンライン上で予約を獲得できるかが鍵になっています。
そして、投資したシステムを活かすためには「変数」が必要です。プレミアム価格からリーズナブルな価格の施設までを揃えることは、システム投資額を確保していく際に不可欠です。つまり、システム投資に見合うだけのキャパシティを確保しなければいけません。
ですから、私たちは都市ホテルに出ざるを得なかったわけです。OMOの進出は、最近ではすごく慎重に下した決断でした。
田中:今のお話でインターネット投資とキャパシティの関係がよくわかりました。顧客ニーズへの対応ということだけでなく、システム投資が効果を発揮するためには、ある程度のスケールが必要だ、ということなんですね。施設の在り方の判断の背景にそのようなお考えがあったことに驚きました。
星野:インターネットが登場し、旅行業界は劇的に変わっていきました。私の親の世代のように、軽井沢で温泉旅館を営み、つつがなく30年過ごせるなんて時代ではなくなっている、という実感は以前から強くあります。
結果的にアグレッシブに見えているかもしれませんが、OMOに限らず、スケール化は星野リゾートが生き残るための手段です。私の世代で星野リゾートを潰さず次の世代に継いでいくためには、スケールを求めざるを得ない環境になっています。
田中:OMOの新規開業をする際、これは欠かせないという条件はありますか? やはり、ロケーションでしょうか?
星野:実は、ロケーションは100%ではないこともあります。欠かせない基準は「顧客にブランドプロミスを提供できるか」と「スタッフにしっかりした労働環境を提供できるか」です。我々が設定している最低限の労働環境を確保することは、特に大事な条件ですね。
先ほど、観光産業の労働環境について少しお話ししましたが(後編を参照)、労働環境に関しては給与や休みだけでなく、職場環境も重視されるようになってきています。都市ホテルの場合、部屋数をたくさん作るために、社員用のスペースが非常に狭いことが時々あるのです。ですから、時には客室の一部を社員用のスペースにすることもあります。
田中:それは気づかない基準でした。それだけ社員の方が働きやすいようにということですね。
星野リゾートの「OMO」とは
「OMO(おも)」は、星野リゾートが全国に展開する「テンションあがる『街ナカ』ホテル」。地域と一体となって街を楽しみ尽くす旅を追求している。OMOのうしろにある数字・アイコンは、サービスの幅を示しており、利用者は旅の目的や過ごし方に合わせて最適なホテルを選ぶことができる。