クリエイティブセッションを通して、新たな解を作っていく
――実際にどのように統合諸表を活用されているのか、教えてください。
今最も多いのは、統合諸表を用いて課題の棚卸しをするところから始めるケースです。非財務領域と財務価値を統合して、会社の状況を可視化するフレームワークとしては、統合諸表が一番わかりやすいと思っています。統合諸表で課題を棚卸ししていくと、各部署が今どのような課題を抱えているのか、違う部門の役員も知ることができます。ときには、電通コンサルティングのメンバーも入って、たくさんの現場社員にヒアリングを行うこともあります。
課題がしっかり見えてきたら、それを改善するためのアクションを考えるクリエイティブセッションを行います。
――事業/社員/社会/環境の4象限で課題を可視化してから具体的な打ち手を考えるのですね。「クリエイティブセッション」とはどのようなものですか?
企業価値向上のアクションを考えるとき、“会議体”は非常に重要だと考えています。決めるための会議と深めるための会議とでは、会議の質が大きく異なるからです。
まずこの場合、「プレゼンテーション」は適していません。企業のストライクゾーンをよく知らない社外の人間が戦略や施策を提案して、それがそのまま企業価値の向上につながるとはなかなか考えにくいからです。一方で、「ワークショップ」という方法も少し違うように思います。僕の知る限りでは、ワークショップというと、いろいろな人が参加してたくさんのアイデアを出し合い、最終的には多数決で決めるといった形が多く、考えが深まっているようには見えないのです。

これらを踏まえて、我々が第3の方法として推進しているのが「クリエイティブセッション」という方法です。プレゼンテーションが上下関係型、ワークショップがアイデアの量産型だとすると、クリエイティブセッションは化学反応型。クリエイターや外部の有識者と経営層が一緒に議論し、深い対話をもとに新しい解を見つけにいくプログラムです。そこでは、クリエイティブディレクターが議論をリードします。
―― クリエイターはここでは作り手ではなく、あくまでリードをするのが役割なのでしょうか?
そうです。ここでは、クリエイティブセッションに参加している企業の皆さんこそが未来を創っていくフューチャークリエイターであると定義しています。企業の価値を高める打ち手を、社外のクリエイターが提案するのもおこがましい話です。皆さんの思いを引き出したり、そこに新しい刺激を我々から入れたりしながら、まだ見ぬ解を探していく。そのために、クリエイティブディレクターが広告の現場で行っているクリエイティブリードという手法を用いています。
クリエイティブセッションをリードするにあたっては、未来を手繰り寄せる所作として「うなずく」「書き出す」「重ねていく」の3つを心がけています。新しいものを生み出そうとする会議では、心理的安全性が担保されていることや、くだらないちょっとしたことも言い合えるなど、空気の作り方がとても大事になってきます。出てきたアイデアを否定するのではなく、出てきたものを認め合いながら「もっとこうできるんじゃない?」「それならこれもできるよね」とアイデアを重ねていく。この重ねていくプロセスが非常に重要なのです。
コンサルティングファームがコーチングやティーチングをしているのであれば、我々はトーチングをしているイメージです。もちろん既に企業の中に火はありますが、その火を大きくしたり、新しい火に変えたり。そのサポートをしています。
――なるほど。クリエイティブセッションに企業から参加するのは、基本的に経営層になりますか?
クリエイティブセッションでは、発言しやすい場を作るために、参加人数は最小限にします。参加されるのは経営層の方が多いですが、具体的なアクションを考えるときには現場の社員も必要だという考えから、現場のエース格の方に参加してもらうこともあります。