ウェルビーイング時代のマーケターの役割は
――今後、統合諸表をどのように広めていかれますか?
おかげさまで、多くの企業様に興味を持っていただいております。企業の短期的な売上をつくるためというよりは、中長期で企業の未来設計図を作りたいという意図で呼んでいただくことが多いですね。一つひとつ実績を残しながら、しっかりと使われるフレームワークとして浸透させていけると嬉しいです。
また、社内では電通グループ内での横展開が進んでいます。海外のチームへも、統合諸表の考え方やこれを通したクリエイティブセッションのナレッジを共有し始めており、統合諸表が国内外にどんどん広がっている状況です。さらに言うと、ウェルビーイングな取り組みをしている企業の評価が高まる仕組みや、そうした企業に投資が集まるような仕組みまで実現すると、国全体にとてもよい動きが出てくるのではないかと思います。
――最後に、マーケターが企業価値向上や社会価値創造に向き合うときの意識や姿勢について、小布施さんの考えをお聞かせください。
統合諸表を開発するそもそものきっかけを作った企業コンソーシアム「Well-being Initiative(※1)」も今年で発足から3年目を迎えました。Well-being Initiative では、「GDW(Gross Domestic Wellbeing:国内総充実)」を開発・提案しているのですが、ちょうど先日、カンヌライオンズの「クリエイティブ・ビジネス・トランスフォーメーション」部門で、Well-beingInitiativeが金賞を受賞しました。GDPという既存の社会の物差しにGDWも加えることによって、社会構造を変えていこうとしているWell-being Initiativeの活動が海外でも評価された形です。

成熟社会を迎え様々な価値観が大きく変わっている今、マーケターも「モノを売る」ということだけでなく、社会をどれだけウェルビーイングにできるのかということに対して、知恵とアイデアで挑んでいかなければならなくなっているように思います。元々マーケティングは「Market-ing」の言葉どおり市場を動かすという意味ですが、ウェルビーイング時代のマーケティングはマーケット・ウェルビーイングであるべきだと思うのです。マーケティングの概念自体が、これから変わっていくのではないでしょうか。
(※)Well-being Initiative:Well-beingという概念とそれを評価する新指標を社会アジェンダにしていくことを目指した企業コンソーシアム。日本経済新聞社と電通が主宰し、公益財団法人Well-being for Planet Earth と国内26の企業が参画している。