キシリトール急成長の裏側にあった「関係性のリデザイン」
藤田氏が市場の急拡大に貢献したキシリトールの事例も、関係性のリデザインそのものだ。キシリトールは1997年に市場に投入され、1年後には9割の認知を獲得し、2000億の市場が数年で生まれた。急激に伸びたこのビジネスを支えたのは、実は歯科医師だったという。
当時の日本の歯科医は保険治療型が中心であり、虫歯患者が減ると事業がシュリンクしてしまう歯科医院が大半だった。ただその中でも、「予防」に着目していた歯科医たちがいた。藤田氏は予防型の歯科医とともに、キシリトールの虫歯予防効果を活用し、「予防歯科」という新しいビジネスモデルをつくりあげたという。
「ほとんどの日本人は虫歯菌が多いので、虫歯を治療し終わった患者さんに対し、虫歯菌を減らさないとまた虫歯になってしまうこと、それには歯磨きだけでは不十分なことを伝えます。そこで虫歯予防効果のあるキシリトールガムを案内し、1ヵ月のお試しで買っていただくともに、1ヵ月後に再度来院していただくように促しました。こうすることで数年に1度しか接点のなかった患者さんたちが、キシリトールガムを使うことで毎月あるいは数ヶ月に1度という頻度で来院するようになります。当時は意識していたわけではありませんが、結果的に歯科医と患者さんの関係性をリデザインしたといえます」(藤田氏)
ブランドパーパスとウェルビーイングの関係性
藤田氏は従来のビジョン・ミッション・バリューと昨今キーワード化しているパーパスの違い、ウェルビーイングとの関係性を説明した。
「ビジョン・ミッション・バリューはどちらかいうとプロダクトアウトの考え方。『我々はこうなりたい』という自分たちの意思を表したものです。一方でブランドパーパスは、生活者とブランド、生活者とプロダクトとの関係性を表すもの。そして、ブランドパーパスを規定していくためにウェルビーイングは、不可欠な要素です」(藤田氏)
こうした関係性のリデザインを推し進めるためには、現実の自社商品の価値、ブランドの価値を可視化・定量化することが当然重要になる。インテグレートが支援する際にはどのように臨んでいるのか。同社では、既存事業の残存価値を計測するメソッドと、そこで測定した価値と顧客が今求めている価値とのギャップを埋められるようなメソッドを開発。これらが掛け合わされることにより、様々なプロジェクトで成果を挙げているという。
なお、こうしたウェルビーイングへの視点は、かねてよりマーケティングに必要と考えていた「カスタマーセントリック(顧客中心主義)」との延長線にあり、顧客との向き合い方を突き詰めた先にあったと話す藤田氏。インテグレートから藤田氏を中心とした3名の共著で『カスタマーセントリック思考』という書籍も出している。
近年は既に多くの企業でも一人ひとりの顧客と向き合う取り組みが重視され、「とにかく消費者の声を聞こう」という取り組みも増えているが、藤田氏はこの状況に“消費者に迎合をすることのリスク”を捉え、警鐘を鳴らした。
「お客様を中心にしたマーケティング手法は様々ありますが、お客様はマーケターではないので、“自分は何が欲しいのか”をよくわかっていないことも多いです。そのため、お客様のいうことを全部真に受けて反映させていくのではなく、あくまでもマーケターとして様々な角度からお客様のインサイトを見つけていくことが重要だと考えています」(藤田氏)
生活者の言葉そのままを捉えるのではなく、インサイトからウェルビーイングを見つけること。この重要性を強く主張し、セッションを締めくくった。