数字重視から戦略重視のマーケティングへ
──今回は、Web広告×AI活用をテーマに伺っていきます。最初に自己紹介をお願いできますか。
冨田:オンライン・オフラインを含めた広告業に従事した後、マーケティングコンサルタントを経験し、マーケティング全体の最適化を担ってきました。現在はガラパゴスでAIR Designという自社サービスのマーケティングチームでマネージャーをしています。
──Web広告の活用は今や当たり前になっていますが、多くの企業が抱えている課題はありますか。
冨田:多くの企業が見落としている大きな課題が1つあります。それはWeb広告が登場すると数字として見える指標が増えたので、Web広告は「数字を追いかけるテクニカルなもの」だと思っていることにあります。
確かにテクニカルな改善アプローチが成果の優劣を大きく左右する時期もありましたが、最近は広告媒体の自動最適化をはじめとするテクノロジーの進化によって、この点における企業間の差異は縮まってきました。そうなると、競合と差をつけるには数字による分析は行いつつも、人と向き合うことでの訴求開拓など「戦略重視のWeb広告アプローチ」が必要になってきます。しかし現在、そこに気づき、実践している企業は多くありません。
コンバージョンの先と施策は、つなげられているか
──戦略重視のWeb広告アプローチとは、どのように行いますか。
冨田:仮説に基づくペルソナ設定を必要十分なパターン用意し、それぞれに対応したコミュニケーションプランを作成した上で、仮説検証が可能なクリエイティブを作ります。そして配信実績を基に効果検証を重ね、顧客理解を深めていくことが挙げられます。顧客理解を深めることで、より適切な訴求を考えることにつながる、これこそがWeb広告における戦略の根幹といえます。
──戦略重視のWeb広告アプローチによって広告の成果はどのように変わりますか。
冨田:主に2つの点が大きく変わります。1つ目は、先ほどお話した「戦略重視のWeb広告アプローチとなる」ことです。2つ目は、「Web広告のコンバージョンではなく、その先の成果と紐づけて改善できる」ことにあります。
管理画面の数値だけを見ても、売上などに結びつきづらい場合も少なくありません。だからこそWeb広告のコンバージョンから売上までデータを紐づけ、分析しながら施策の打ち手を探っていくことが大切です。このように売上から逆算し、PDCAを回すことで顧客理解を深めながら成果に結びつけていくことができるのです。
企業がAIを使いこなすには
──AI活用についてお聞かせください。帝国データバンクの調査では、生成AIを業務で活用・検討している企業は61.1%となっていましたが、昨今の企業におけるAI活用はどのような状況でしょうか。
冨田:AIなどのテクノロジーは可能性を広げるものですし、有効に活用すればビジネスの成長につながることは間違いないと思います。ただ、どんなに優れたテクノロジーであっても、それを活用する技術も必要になってきます。
たとえば急に会社から「AIを活用して業務をやりなさい」いわれても、すぐに使いこなすのは難しいですし、何に活用するのがよいかもわからない企業も少なくないように思います。
──AIを使いこなすには、どういったことに注意するとよいでしょうか。
冨田:AIなどのテクノロジーありきで「何か使えるタスクはないだろうか」と考えてしまいがちですが、それは順序が違うと考えています。本来は、色々なマーケティングのタスクがある中、「ここはAIを活用するのが適しているだろう」という箇所に使っていきます。その入り口と出口が逆になってしまうと、うまくいかないケースもあるように思います。
AIを活用し、Web広告における「プロセスハック」を実現
──Web広告でAIを活用する利点を教えてください。
冨田:弊社ではプロセスハックと呼んでいますが、業務効率化できるのが一番のメリットです。
たとえば弊社のプランナーは、案件の競合など他社のクリエイティブの傾向をぱっと把握できます。というのは、クリエイティブ戦略を立てるための市場調査において、AIR DesignではAIを活用します。
弊社で行う市場調査は、公開されているWeb広告やLP、バナーなど毎月200万件以上のクリエイティブデータを収集。そのデータ群を、AIによってカラーバランスや訴求の方向性、ビジネスモデル、アプローチ方法などで分類し、戦略立案のために利用するデータベースを構築しています。これはReverse Designという弊社の特許技術を使って行っています。
──他にはどのように活用していますか。
冨田:クリエイティブ制作では、画像生成AIを活用しています。撮影などに比べて予算や制作時間を抑えつつ、フォトストックサービスのように競合とのかぶりを防げることがポイントです。
AIで思った通りの画像を生成するためには、適切なプロンプトによる指示が欠かせませんが、弊社には適切なプロンプトを作成するための高いスキルと知見があります。
冨田:さらに、クライアントから提供していただいたターゲットの情報やビジネスモデルなどを基にChatGPTなど複数のテキスト生成AIを活用して、簡単にペルソナ設計を出力することを可能にする独自フローも開発しています。また、コピーライティングやディスクリプションの作成などにもテキスト生成AIを使っていますね。
AIで生成されたものは必ずしもそのまま使うのではなく、それをたたき台として、人間が修正を入れて仕上げます。こうすることによって、制作のスピードを飛躍的に上げることができています。
クリエイティブを多角的かつロジカルに評価
──AIを高いレベルで活用している貴社のマーケティング支援体制を教えてください。
冨田:1つの案件を6人の専門家チームで担当します。1人は、全体を管理して戦略を立案し、方向性を決めていくプランナー。2人目は、立案した戦略を円滑に実行するディレクター。そして3~5人目は、クリエイティブを作るライターやデザイナー、コーダー。6人目は、制作したクリエイティブを配信し、効果検証していくアドオペレーターです。
この6人がクライアントのパートナーとなって、必要なクリエイティブ制作及び広告運用の全てを提供します。同程度のサポートを提供する場合、通常はそれ相応の時間やリソースがかかりますが、弊社ではAIをはじめとしたたくさんのテクノロジーを駆使することで、各工程を最大限効率化。本来、多額の予算や組織体制を必要とするようなWeb広告の体制を、より身近に実現できます。
──ほかにAIR Designの特徴はありますか。
冨田:クリエイティブの制作にあります。デザイナーやライターなど制作に携わるメンバーは、フリーランスやパートナー企業ではなく弊社社員です。その理由は、クリエイティブの質を担保し、なおかつ弊社の考えるマーケティング視点を持ったものにするためです。
また、クリエイティブの評価はともすると主観的になりがちですが、弊社ではデザインに対して160項目の独自の評価基準を設けていて、どの要素が不足しているかといったことをロジカルに判断できます。主観になりがちなクリエイティブを客観視できるようにすることで、極力属人化する要素を減らし、どのメンバーが担当しても一定以上のクオリティーを担保できるようにしています。
──AIR Designを活用すると、Web広告はどう変わりますか。
冨田:テクニカルなアプローチから、クリエイティブ改善を中心とした戦略的なアプローチに変わります。AIR Designをご利用いただき、Web広告のPDCAを続けることを通して、クライアントの顧客理解が深まり、新たな施策につながるナレッジを蓄積することが可能です。
800社で活用されるAIR Designとその成果
──AIR Designの強みはどういったところにありますか。
冨田:長年の実績と、そこから生まれたメソッドによる確かなクリエイティブ制作能力、常に最新のテクノロジーを活用していく開拓し活用していく能力が強みです。
──AIR Designを活用している企業は、現在どのくらいありますか。
冨田:サービス開始から4年ほど経ちますが、おかげさまで導入社数が約800社以上となりました。BtoB・BtoCや業界を問わず、幅広い企業様にお声がけいただいています。
──実際にどういった成果が出ていますか。
冨田:ミライスピーカーという難聴者向けスピーカーを販売しているサウンドファン様の例では、AIR Designを導入することで顧客理解を深めていただくことができました。
AIR Design導入前は、一定数商品は売れているが、自社の商品が売れている理由か説明できない不安を抱えていらっしゃいました。
そこで、複数のペルソナを設計。そのペルソナに合わせてクリエイティブを作り分けた上で、Web広告での仮説検証を行いました。この仮説検証を繰り返すことで、どんな顧客が、なぜ買ってくれるのかが明確になり、売上も約10倍まで拡大した、非常に良い事例です。
──最後に、今後の展望をお聞かせください。
冨田:AIだけでなく、今後もWeb広告に使われる様々なテクノロジーが出てくると思います。そのたびに各企業が社内で知見をためるのは大変なことです。
弊社では、最新のテクノロジーをいつでも活用できるように研究しています。技術的な部分は弊社が代行しますので、クライアント企業の方々には、より広い範囲で自社ビジネスのマーケティングに必要な施策のために注力していただけるようにしていきたいです。そのために、Web広告の戦略立案から制作、運用まで弊社で受け入れられるような体制を今後も拡充しようと考えています。
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