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ブランディング先進企業に学ぶ、マーケティング戦略としてのブランディング

理論通りにキャズムは存在していた。日本でキャズムを越えていくUber Eatsのブランディング戦略

理論通り、キャズムは存在していた

木村:Uber Eatsのサービスをマス化させていくにあたって、なかなか越えられない困難な壁、いわゆるキャズムがあるということでしょうか?

中川:そうですね。Diffusion of Innovations(イノベーションの普及理論)を最初に勉強したのは多分P&Gにいた頃だと思いますが、 あの時はこの理論を直接使う日が来るとは思っていませんでした。ですが、イノベーターがいて、アーリーアダプターがいて……と本当に理論通りの構成比(%)になったタイミングで1回成長が鈍化したんですね。

 新しく出てきたテクノロジーを利用する時のハードルが日本は諸外国よりも高いのか、ここを越えるのに少し時間がかかっていて、キャズムで言うとレイトマジョリティの人たちが多いというのは間違いないと思います。ティッピング・ポイントと言って、「みんな使っているし、自分も使わなきゃ乗り遅れる」という風に物事が一気に広がる瞬間がありますが、日本はここに到達するまでに時間がかかりやすいというのもあるのかもしれません。

木村:そこのキャズムを越えていく時、マーケティングとしてはどういうアプローチになるのでしょうか?

中川:Uber Eatsの場合、コロナ禍で一気に成長したこともあって、最初の頃は「安心して使えるサービスなのか?」と良くないニュースが流れることもありました。キャズムを越えて、世の中の半分以上の方に使っていただけるマスブランドになるためには、安心感や親近感がやはりまず先に必要になるということは、間違いないです。

 この前提を踏まえて、新しいサービスやブランドにおいては、一定量の広告を展開し続けるということが非常に重要であると考えています。必ずしも投下量だけの問題ではなく、コンテンツも大事になってくるとは思いますが、安心感・親近感の前に「知っているブランドである」「身近なブランドである」という入り口がないと、マスのセグメントに入っていくのは厳しいということがわかりました。

圧倒的な投下量でCM展開を続けている理由

木村:『ブランド・パワー』では、ブランド力の構成要素を「ブランドの想起性(=認知)」と「ブランドイメージ」の2つに分けています。想起性のほうがコアになる要素で、「助成想起」「純粋想起」「エボークドセット」「第一想起」の4段階に分けて、認知の量と質を追っていく形にしているのですが、Uber Eatsがキャズムを越えるために獲ろうとしているのはどこの認知レベルになりますか?

中川:トップオブマインド=第一想起を圧倒的に重視しています。どこを獲りにいくかは業種業界によると思いますが、テック系のプラットフォームサービスの場合、PMF(*プロダクト・マーケット・フィット)でカテゴリー自体がドライブされていくので、一定期間が経過するとマーケットがいくつかのブランドに集約される傾向があります。  

 Googleがあれば、第2のGoogleは必要とされませんし、Facebookに関しても第2のFacebookは定着しにくいですよね。写真に特化したInstagramが定着し、動画に特化したTikTokも定着した、けれどいずれも類似の第2ブランドは定着しにくい。これは根本的な差別化が難しいことに起因するわけですが、このようにブランドが集約される業界の場合は「一番に思い出してもらうこと」が勝負の大部分を占めます。ここの第一想起を獲得するために、認知の量も質も必要になってくるというわけです。

木村:なるほど。ブランドマーケティングにおいて、P&Gやユニリーバで日用品を扱っていた頃には意識しなかったこと、Uber Eatsで新たに重視するようになったことはありますか?

中川:「新しい習慣を作ることの難しさ」があるゆえに、マーケティングの重点の置き方が変わったという話を最初にしましたが、その一例として、広告を作る時、アテンションをよりしっかり獲るための方法を強く意識するようになりました。過去、P&Gやユニリーバだとやらなかったであろう方法もとっていますね。たとえば、CMのキャスティングしかり、アテンションを獲るための“ギャグ”もしかりです。

木村:たしかに、Uber EatsのCM面白いですよね。

Uber Eats で、いーんじゃない? 釣り篇

中川:Uber Eatsはサービスを利用したことのない方もいますが、シャンプーを使ったことがない人はいません。その点で、シャンプーのように自分も日常的に使っているプロダクトのCMと比べて、Uber EatsのCMはどうしてもスルーされる率が高くなってしまいます。

 ですので、CMを見た時、1回目は「面白いな」と思ってもらうことが必要なのです。2回目以降に「あの面白かったCMだ」と見てもらって、少しずつ興味を持ってもらえたらという狙いがあります。

 PMF(プロダクトマーケットフィット):Andreessen Horowitzの創業者、マーク・アンドリーセンによって広められた考え方。PMFしている状態とは「顧客のニーズを満たす商品で、正しい市場(潜在的な顧客がたくさんいる市場)にいること」である。(出典:MarkeZine「PMF(プロダクトマーケットフィット)とは何か? PMFのシグナルとそうでないシグナルを見極める」

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

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MarkeZine(マーケジン)
2023/11/14 08:00 https://markezine.jp/article/detail/43952

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