※本記事は、2023年11月刊行の『MarkeZine』(雑誌)95号に掲載したものです
【特集】「知らなかった」では済まされない、法規制とマーケティング
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─ マーケターが改正電気通信事業法に対応するために必要な3つのステップ(本記事)
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─ ステマ規制のポイント:インフルエンサーを尊重しつつ法抵触のリスクを最低限に!トリコの取り組み
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─ 「今まで同様にやっていきたい」という考えを捨てる時。ステマ規制への向き合い方と注意点
改正電気通信事業法で何が変わった?
──最初に電気通信事業法がどのような法律かについて、教えてください。
電気通信事業法は、電気通信を健全に発達させ、国民の利益を確保する目的のもと生まれた法律です。定められているのは、電気通信事業への参入手続きや、検閲の禁止、通信の秘密の保護に関する内容です。通信会社やテレビなどの放送局、SNSプラットフォームなどの事業者が対象で、電話やメールなど国民が通信上でやり取りしている情報を勝手に覗き見ることがないよう、様々な規制がかけられています。その他にも、電気通信設備を設置するための法律なども含まれます。
──今お話しいただいた話だけを聞くと、多くのマーケターにとっては関係のない法律にも思えますが、改正電気通信事業法ではユーザー情報利用の透明性確保の観点などから新たな規制が加わっているんですよね。
今回の改正では、ユーザー情報の外部送信規律が追加されています。これは、事業者が利用者に関する情報を第三者に送信する場合、通知・公表などをしなければいけないという内容で、マーケターが注意すべき規制となっています。
利用者がウェブサイトやアプリを利用する際、様々な情報がサーバを介して行き来しています。このうち、利用者が閲覧・利用するウェブサイトやアプリのサーバとの間で、利用者の情報が行き来するのは問題がありません。
──たとえば、MarkeZineのウェブサイトで記事を閲覧しているとき、MarkeZineと利用者の間でデータが行き来するのは大丈夫、ということですね。
その通りです。しかし、データの行き来が利用者のウェブサイト、アプリの間にとどまっているケースはほとんどありません。分析ツールやターゲティング広告のタグが埋め込まれていれば、利用者の情報は第三者にも行き渡ります。今回の改正では、この第三者への情報の送信に関する通知、公表を行うよう定められています。
この第三者に対し情報が送受信されていることは、多くの利用者が認識しておらず、相当なネットリテラシーがないと理解できません。そのため、その情報のやり取りの透明性を確保しようというのが、外部送信規律を定めた目的なのです。
改正電気通信事業法は3つのステップで対応せよ
──外部送信規律に対する対応がマーケターに求められるようになったのが、改正電気通信事業法のポイントだということがわかりました。では、マーケターは今回の改正に対しどのように対応すれば良いのでしょうか。
マーケターの皆さんは、以下の3つのステップで今回の改正に対応する必要があります。
- 自分たちに外部送信規律が適応されるのかの見極め
- 外部送信規律で通知または公表すべき事項の整理(対応すべき事業者の場合)
- 通知または公表する方法の検討
まず、1つ目の外部送信規律が適応されるかどうかの見極めですが、外部送信規律の主な対象者には「メッセージ媒介サービス(メッセージングアプリやメールサービスなど)」「SNSプラットフォーム」「検索サービス」「ホームページの運営(ニュースサイト、まとめサイトなど)」が挙げられます。
一方、自社商品のオンライン販売を行っているECサイトや、コーポレートサイト、個人ブログといった自己の情報発信のために運営しているものは対象とならないのです。
様々な企業様の相談に乗っていると、自社が適用対象かを見極めるのがとても難しいと感じていることがわかります。個人情報保護法の場合、個人情報を扱うすべての事業者が対象となるため、ほとんどの企業が適用対象でわかりやすいのですが、電気通信事業法は条文を見ても判断が難しく、実は適用対象だったというケースも出てきています。
ウェブサイトやアプリなどを顧客接点に持っている企業の多くは、何かしら広告やアクセス解析のタグを入れており、第三者との通信を行っています。その中でも、自分たちは通知または公表すべき事業者なのかを判断する必要があります。
情報の内容、ツール名、利用目的をわかりやすく明記
──続いて、外部送信規律で通知または公表すべき事項の整理はどのように行えば良いのでしょうか。
外部送信規律で通知または公表しなければならない事項は「1.送信されることとなる利用者に関する情報の内容」「2.1の情報を取り扱うこととなる者の氏名または名称」「3.1の情報の目的」の3つです。
今回の改正の出発点は、利用者に対する情報通信の透明性の確保です。ウェブサイト、アプリを利用すると何の情報が、誰に、どのような目的で送られるかを明示する必要があります。
──様々な広告、アクセス解析に関するサービスを使っている企業がほとんどなので、その整理は大変そうですね。
たとえば、複数ブランドで別のオウンドメディアを運営している場合、異なるツールを導入していたり、マーケティング担当が分かれていたりしているので、それぞれの内容を整理する必要があります。
──3つ目の通知または公表の方法についても教えてください。
通知でも公表でも共通しているのは「日本語で記載する」「専門用語は使わない」「平易な表現を使う」「文字を適切な大きさで表示する」ことの4点です。
通知の場合は先ほどお伝えした3つの事項を用意に確認できるよう、情報か情報が載っている場所(リンク)をポップアップなどにより表示する必要があります。一方、公表する場合は、利用規約やプライバシーポリシーのように、利用者がすぐたどり着ける場所に情報を表示しなければなりません。
改正電気通信事業法に対応した通知や公表ができるツールを提供する企業もあるので、そういったツールを導入、活用するのも良いでしょう。
──同意は取らなくても大丈夫なのでしょうか。
はい、同意までは求められていないので、通知または公表で問題ありません。同意取得での対応も可能なのですが、同意取得で対応すると、広告やアクセス解析ツールを新規導入したり入れ替えたりしたときにまた同意を取る必要が出てくるので、現実的ではありません。
部門を超えた連携が重要に
──今後も個人情報保護法や電気通信事業法など、データ活用やマーケティングに関わる法律の改正が行われる可能性もあると思います。今後マーケターはどのように法律と向き合っていくべきか、アドバイスをいただけますか。
個人情報保護法に関する対応もそうですが、マーケティングや法務、情報システムなどが部門を超えて連携することが重要です。法務だけでは規制の対象になるツールがわからず、マーケティングや情報システムの部門では法律の内容を理解するのは難しくなっています。
外部送信規律の対応も部門間で連携できていないと、せっかく法規制に対応するためのサービス・ツールを導入したのに外部送信規律に関する記載がウェブサイトやツールを導入、活用するのも良いでしょう。
──同意は取らなくても大丈夫なのでしょうか。
はい、同意までは求められていないので、通知または公表で問題ありません。同意取得での対応も可能なのですが、同意取得で対応すると、広告やアクセス解析ツールを新規導入したり入れ替えたりしたときにまた同意を取る必要が出てくるので、現実的ではありません。アプリで適切にされておらず、十分な法規制対応になっていないといった事態も起きてしまいます。導入前の段階で外部送信規律に記載すべき事項を法務や情報システムと連携していくと、法規制に対応するツールの導入もスムーズに対応できます。
このように、組織で即時に対応する体制の整備が今後求められてくると思います。