資生堂が考える、DE&Iとビジネスのつながり
白石:しかし実情として、日本企業のマーケターの多くはDE&Iを人事領域のことだと捉えがちですよね。資生堂ではDE&Iとビジネスのつながりをどのようにお考えでしょうか。
大場:マーケターは外に発信するポジションですから、社会的背景を捉えるDE&Iの視点がとても重要です。しかし今回聞き取りを行ったところ、弊社社員にも知識や意識にバラつきがあることがわかりました。
もちろん社会貢献の意識の高いマーケターもいますが、全体でみるとリテラシーは様々です。たとえばLGBTQ+の話題を出しても他の社員とあまり話が合わなかったり、DE&Iの視点で新しいアイデアを提案しても、認識の違いによって実現にはハードルがあったりします。
国内マーケティングを統括するトップ層も、まずは全マーケターのDE&Iの視点を全体的に底上げし、ベースづくりをすることで共通の認識を持つ必要があると認識していました。
全マーケター向けに実施したワークショップ
白石:おっしゃる通り、社内でDE&Iについて本質的に理解するベースが整えば、多様な人材を活かしやすいインクルーシブな組織になり得ます。また、認知的多様性と組織の集合知の高さは比例しますので、新しいクリエイティブやブランド価値の向上にもつながる可能性は高くなると思います。
弊社でもコンテンツ開発に携わらせていただきましたが、資生堂ではマーケターが自身の「盲点」に気づくことを主軸に置き、「ブランドミッション実現のために、今までは見つめきれていなかった方々のために、自分たちのアセットで何ができるか」についてアイデアを出し合うワークショップを実施されましたよね。
リスクマネジメントとしてDE&Iの研修等を行う企業が多い中、DE&Iの観点からアイデアの創造を主軸にしたワークショップは、新しい取り組みだと感じています。
大場:具体例として視覚障害者の方を設定したのですが、ディスカッションの中で「ガイドメイク(資生堂が行っている、視覚に障がいのある方が自身で実践できる独自の化粧法)の活動について理解を深めることができた」「高齢の親が、目が見えにくくなっていることに思い至った」など、新たな気づきを得た社員は多かったです。
また、自分のブランドのミッションにDE&Iの視点は入っているか、考え直した社員もいました。商品を実際に使うのは、マーケターがターゲットとするよりも広く多様な生活者であり、ブランドにはその方々が「これは自分向けだ」と感じられるインクルーシブネスが求められます。このワークショップを通してマーケターが自分の盲点に気づき、当事者視点を見つめることの重要さに気づいたことは大きなシフトだと思います。
