※本記事は、2023年12月刊行の『MarkeZine』(雑誌)96号に掲載したものです
【特集】2024年・広告の出し先
─ 2024年広告業界5つの予測。事業会社も広告会社も「改めて考える」ところからスタートを
─ CTVの利用が定着した今、改めて押さえておきたいTVerの可能性
─ 注目媒体の最新トピックス:勃興期から実運用へ。リテールメディアのリアルな現在地(本記事)
─ 注目媒体の最新トピックス:LINEヤフーの発足で広告プロダクトはどう変わる?
─ 注目媒体の最新トピックス:DOOHの出稿率伸長の背景 モーメントを捉えられる唯一無二の媒体へ進化
─ ブランディング・パフォーマンス双方で活用進むTikTok広告の現状とアップデート
─ 広告プロダクト数は1年で3倍に、フルファネルで広告機能拡充を進めるPinterest
─ 質の高い1st PartyデータとCopilotの広告で差別化を図る、Microsoft広告の現状
─ 1日731分もスクリーンを見ている生活者のメディア環境
─ 注目の媒体トピックスまとめ/リテールメディア、DOOH、Microsoft、TikTok他6媒体
「リテールメディア」バズワード化の裏に現れた分岐点
株式会社アドインテ 取締役副社長 COO 稲森 学氏
通信会社で2年間営業に従事し、その後20歳で起業。24歳で会社の株式を売却し、イーファクター(現・メタップス)大阪支社立ち上げに関わる。その後2度目の起業をし、設立した会社が2016年にアドインテと合併。副社長に就任し現職に至る。
──稲森さんには2022年の特集でもリテールメディアの当時の状況をシェアいただきました。あれから約1年、どのような進歩があったでしょうか?
2023年はリテールメディアを運営する小売企業においても、それを活用する広告主においても、大きな進展のあった1年でした。リテールメディアは大きく次の3つに区分されますが、いずれの形態においても目覚ましい進化を遂げています。
1.デジタルサイネージなど店舗を起点にしたもの
サイネージの設置台数が増加。サイネージに投影するコンテンツの最適化に向けて、各社まだ勝ち筋は見えていないものの、小売×メーカーでリテールメディアならではのクリエイティブの検証が進行中。
2.デジタルオウンドメディアの顧客接点を活用するもの
自社アプリに広告枠を作り、購買データをもとに1to1により近い形で広告を配信することが多くの小売企業で可能に。直近では、自社のECサイトなどオウンドメディアに純広告枠や検索広告を導入し、そこで収益をあげる小売企業も増加。
3.自社の1stPartyデータを活用し外部メディアに広告を配信するもの
2022年時点は配信先が限られていたが、配信先の外部メディアが拡張。CTVにも配信できるようになり、外部メディアとの連携が大きく進んだ。
──現在、日本のリテールメディアは大小が混在している状況です。広告面として集約されていく可能性はあるのでしょうか?
米国市場と違い、日本の小売市場には中小企業が多く、地方で圧倒的なシェアを持つ小売企業が多くあります。各小売企業とやり取りしながらそれぞれに配信するのは手間がかかりますし、広告主としてネットワーク化されたところに配信したいというニーズは当然出てくると思います。ですが、小売各社が提供している広告枠を単純にネットワーク化すれば良いのかというと、私はそうではないと考えます。
リテールメディアの最大の武器は、購買データ・顧客データを基点に店舗やデジタルの顧客接点があることです。まずは自社で活用できるデータを整理し、データ分析やレポーティングの基盤を整え、それぞれの顧客接点ごとに広告メニューを構築し、1社でもリテールメディアとして運用できるビジネスの基盤と価値を創造すべきだと思います。今ネットワーク化に踏み切るのは広告売上を優先した結果だと思うのですが、今後の成長を考えるなら、それぞれの基盤ができた後でも遅くないと思います。
──今はまだその段階ではないということですね。
そうです。今、リテールメディアがバズワードのようになってしまっていますが、目先の利益ではなく、広告主各社と深く取り組みができるよう中長期の視点を持って進めてほしいです。そうすれば、ユーザーにとっても、広告主にとっても、小売各社にとっても価値のある三方よしのリテールメディアとして存続できると思います。