顧客行動を見える化するフレームワーク
顧客行動を見える化する際、多くの担当者は売上から営業利益に至る財務データを見るだろう。一休も同様だが、特徴的なポイントが三つある。一つ目は、売上から営業利益までの数値を、事業部別(商品単位)や営業所別ではなく、顧客タイプ別の利益構造で見ている点だ。

二つ目は「売上に至るプロセス」を理解している点だ。「売上という数値は結果指標です。その数字を上げる方法は、売上や利益を見ても浮かび上がってきません。売上を上げたいのであれば、売上に至るプロセスを注視することです」と榊氏は強調する。
三つ目のポイントは、顧客のリピートプロセスにおける、顧客別の累積利益(LTV)を理解している点だ。
「たとえば、多くの広告予算を投じて新規顧客を獲得したとしましょう。『獲得したお客様が平均5年間利用してくださるから、この広告施策は黒字である』というロジックは一般的です。しかし私たちは、そのお客様がサービス利用中の5年間、2度と広告を踏まないことを前提にしています。そのため、基本的に売上ではなく利益に注目しているのです。『そのお客様が5年間で累積何円使うか』ではなく『そのお客様が5年間で何円の利益を生むか』に目を向けています」(榊氏)
先に紹介した三つのポイントに沿って、一休では次の十個の分析を行っているという。

自社の競争環境を見える化する:売上=市場規模×シェア
市場の全体像と、自社を含む各社のシェアを表したグラフはよく使われるが「これを見るだけでは次の施策にはつながらない」と榊氏。そこで、一休では次のように分解していく。
「私たちは『ビジネスホテル』『ホテル』『旅館』『リゾートホテル』といった商品ジャンル別にグラフを分解するようにしています。そうすると『市場全体で一休は約20%のシェアを占めているが、ビジネスホテルが弱く、旅館やリゾートホテルは強い』などの示唆がわかります。その示唆が『弱いジャンルをどのように強化していくか』という施策の立案につながるのです」(榊氏)
選定理由別のシェアから次の一手を導く
また「商品価格帯別」や「エリア別」の売上などでもシェアをグラフ化することで、自社のシェアが強い部分・弱い部分が明らかになるそうだ。中でも榊氏が「最もおもしろい」と語るのは、顧客の「商品選定理由別」の売上でシェアをグラフ化することだという。
「宿泊予約サイトを『お得に予約できるから』という理由で選ぶ人もいれば、『ポイントが貯まること』や『サイトの見やすさ』を重視する人もいます。お客様の選定理由別に、自社のシェアを可視化するのです。これにより、自社の業績を上げるために狙うべきオセロの石を定めて、施策を打つことができるのです」(榊氏)
顧客の購買プロセスを見える化する:売上=訪問者×購買確率×購入単価
昨年と今年の売上を比較して「+20%成長」という折れ線グラフもよく使われるが、このグラフも分解することで、さらなる成長に向けた施策が考えられると榊氏は言う。
まずは「訪問者数」「購入率(CVR)」「購入単価」でグラフを分け、さらに売上を「既存顧客」と「新規顧客」に分ける。すると「新規顧客が増えていて、訪問者数も単価も購入確率も上がっている」という示唆が得られるようになる。既存顧客の売上が芳しくないのであれば、既存顧客を「ヘビーユーザー」「ライトユーザー」「休眠ユーザー」のように分類する。そうすると「既存顧客が伸びていないのは、ヘビーユーザーが伸びていないからだ」と明らかになっていくわけだ。
「『ヘビーユーザーの売上が1%しか成長していないのは、購入確率が下がっているからだ』という示唆が得られたとしましょう。すると『最近アップデートした売り場の受けが悪いのかもしれない』『競合が大規模なセールをしているからかもしれない』といった要因もわかってきます。実際に起きていることをよく理解した上で施策が打てるという意味でも、私たちはこのような分析が有効だと考えています」(榊氏)
