※本記事は、2024年1月刊行の『MarkeZine』(雑誌)97号に掲載したものです
【特集】2024年の消費者インサイト
─ 電通消費者研究プロジェクトDDDより 「2024年の欲望トレンド」を発表
─ カード決済データから読み解く若年社会人のリアルな消費動向
─ 共働きファミリーの消費活動は、時短のその先へ チームで動く新しい家族のかたちとは?
─ シニア層の消費行動から見えた5つのトレンド
─ ピンチをチャンスに 消齢化社会でインサイトをどう掴む?(本記事)
年齢で対象を狭めるのはもったいない
──まずは前提として「消齢化」がどのような現象なのか、紹介いただけますか?
かつては年代による違いが大きかった価値観や嗜好の差が小さくなり、結果的に年代ごとの特徴が徐々に消えていく現象のことを消齢化と名付けました。この現象を見つけたきっかけは、生活総研で30年前から実施している「生活定点」調査にあります。以前は生活に関する様々な質問項目で20〜60代の回答に年代間の乖離が見られましたが、最近は全年代の回答の傾向が近づいてきているのです。
我々が声を大にして言いたいのは「消齢化=均質化ではない」ということです。消齢化と多様化は同時に進んでいる現象だと我々は考えています。20代なら20代、50代なら50代の中で嗜好や価値観が多様化し、結果的に他の年代の嗜好・価値観と重なる人が増えてきているわけです。皆が同じ方向に向かっているわけではないため、その点を留意したほうが良いと思います。
──消齢化が発生した背景を教えてください。
大きく3つあります。1つは能力の面で「できる」が増えたことです。アクティブシニアという呼称が一般化しているとおり、体力や気力の面で高齢者の方々が非常に若々しくなっています。調査の結果を見ても「焼肉が好き」「ハンバーグが好き」と回答する50〜60代の割合が30年間で右肩上がりに伸びているのです。日本人の平均寿命が70歳前後だった過去と、人生100年時代と言われる現在では、同じ50〜60代でも感覚が異なるのは自然なことかもしれません。加えてスマホの普及で情報の民主化が進み、老いも若きも等しく利便性を享受できる点も「できる」を促進しているはずです。
2つ目は価値観の面で「すべき」が減ったことです。たとえば「女性は家で子育てをすべきである」「結婚したら絶対に離婚してはならない」など、伝統的な家族観や職業観から多くの方が脱却しつつあります。戦争や不況に見舞われた厳しい時代の経験者が減り、残った人々は戦中・戦後ほど著しく変わらない経済状況を長く共有しているため、価値観が似通ってきたのかもしれません。
3つ目は嗜好の面で「したい」が重なったことです。「すべき」が減ったため、“年相応”や“適齢期”のような固定概念に縛られることなく、各人が生き方を自由に選択できるようになりました。すると「ゲームが好きな高齢者」「レコードで音楽を聴く若者」など、趣味や嗜好、関心事が年齢の枠を超えて重なるようになってきたのです。
──消齢化が進むとマーケティング業務、とりわけインサイトの把握にどのような影響が生じるのでしょうか?
多くのマーケターがデモグラを軸に対象顧客の設定やポートフォリオの作成を行ってきたと思います。「20代の美容感度が高い女性」「60代の元気なシニア」など、枕詞に必ず年代があり、それを手がかりに定量調査やインタビューでインサイトを捉えていたはずです。ただ、そのやり方では消齢化が進んだ場合にポテンシャル層をみすみす逃す可能性があります。
たとえば20代の女性を対象顧客に設定して調査を実施したとしましょう。発掘したインサイトは20代に固有のものであると思われがちですが、実は俯瞰すると30代・40代・50代・60代にも共通するインサイトかもしれません。インサイトは基本的に欲求や価値観によって成り立っています。それらが今まさに消齢化しているわけですから、年齢で対象範囲を狭めるのはもったいない話です。
少子高齢化にともなって日本の人口が減りつつある中、隙間や差別化ポイントを探ろうとするとパイはどんどん小さくなってしまいます。であれば消齢化を逆手に取って「大きい同じ」すなわち年齢や性別を問わず多くの人に共通する欲求や価値観を見つけたほうが建設的ではないでしょうか。